企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
大蔵物産株式会社 代表取締役 大蔵 智昭(おおくら ともあき、62歳)
相談内容:
わが社では水晶を扱っております。
いえいえ、占いとかスピリチャル系の怪しいものじゃないですよ!
水晶って奴は礼儀正しくって、電気的な刺激を特定の方法で加えると、正確な振動をしてくれるんです。
クォーツ時計とかでお馴染みですよね?
これが最近の電子機器の必須品なわけで、われわれは大きな半導体メーカーなどに大量に小型の水晶を卸しているのです。
最近のスマートフォンや、iPadの大流行のせいか、売れに売れておりまして、当社でも相次いで設備投資を行い、24時間操業を行っております。
もちろん儲かっておりまして、嬉しい悲鳴というわけなんですが、このように業績拡大中ですので、人員も逐次増やしていかなくてはいけません。
先生はもちろんご存じでしょう。
このような業界の先行きなど誰も予想ができないことを。
今が良くってもこの先どうなるかなんて、誰にもわからんのです。
するとですね、急激に需要が減少した場合の備えについて経営者として考えておかねばなりません。
機械でしたら用がなくなり次第廃棄するなりすれば良いのですが、従業員は到底そうはいきません。
そこで、期限付きの雇用契約をもっと利用していこうと思うのですが、そういう雇用契約にしておけば、期間さえ過ぎれば更新を止めやすいんですよね?
加えてその
「契約期間」
も相当短くしておこうかなんて考えているんですけど大丈夫ですよね?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:期間の定めがある労働契約
新卒などが企業に就職する場合、通常、雇用契約に期限は定められません。
労働契約の終了については、従業員の退職の意思が明確なものの他は、極めて例外的に認められているに過ぎず、
「解雇」
といった手段を企業がとることが困難なことはよく知られています。
対して、雇用契約締結時に契約期間を定めておくものを、
「期間の定めがある労働契約(有期労働契約)」
といいますが、民法上は当該契約期間の満了により終了するのが原則です。
企業としては、従業員が必要である限りは契約を更新しておき、必要がなくなれば更新しなければいいというように、人事管理がタイムリーにできるとも思われます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:雇い止めとは
しかし、従業員からすれば、契約の種類としては
「期間の定めがある労働契約」
であるとしても、これまでもずっと更新されてきていた場合には、
「いちいち更新という手続はあるもののこれからもずっとこの会社で働いていけるのだな」
との期待を抱くことも当然ともいえます。
このようなときに、企業が、人手がいらなくなったとして一方的に有期労働契約の更新を止めてしまうことは、従業員の期待を害する可能性が高く、社会的にも問題になったため、判例上も一定の要件の下で保護されてきました。
この問題は従来
「雇い止め」
と呼ばれ、著名な判例(東芝柳町工場事件)では、有期労働契約を更新し長期間雇用している臨時工の雇い止めについて、期間の定めが一応あったとしても、
「期間満了ごとに契約更新を重ねることは、期間の定めのない契約と実質的に変わりがない」
ため、雇い止めの意思表示は実質的に解雇の意思表示と同じであり、解雇権濫用法理が類推適用されるとしました。
つまり、雇止めをするときには、通常の労働契約における解雇と同様に、厳しい要件を満たさない限り無効とされる可能性があるというわけです。
もちろん、紹介した判例は、その事案について雇い止めが無効であると個別的に判断されたに過ぎず、全ての有期雇用契約について更新しなければならない義務が企業にあるわけではありません。
つまり、当該有期雇用契約の実情がどのようなものか(仕事の内容・性質、更新の回数や更新手続きが形式的かどうか、雇用期間の長さ、企業内での地位、採用時に契約の特殊性について説明を行っていたかなど)に大きく左右されます。
モデル助言:
有期労働契約を多用していくこと自体はもちろん構いませんが、契約期間が満了したからといっていつでも更新を拒否して人員を削減する自由があるかといえばそうではないことをしっかりと認識しておく必要があります。
将来的に更新を拒否する可能性があるのであれば、有期労働契約を締結する際にその旨の説明をきちんとし、また、実際に問題のある人間については更新を拒否し、条件を見直した上で再契約するなど
「イヤであれば拒否する」
という当然の対応を取っておくことが大切ですし、加えて、更新の際にも逐一スポット契約であるため更新拒否の可能性を告げておく等行うべきです。
そうすることで
「更新してくれて当然」
などという無用な期待を抱かせないようにしましょう。
なお、契約期間を短くすることも考えておられるようですが、
「従業員の犠牲の下、柔軟に人員整理を行いたい」
などという身勝手を法は許しておらず、平成20年3月施行の労働契約法は、不必要に短い契約期間を定めることを禁じていますので、控えられたほうがよろしいでしょう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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