企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
亀山物産株式会社 代表取締役 深山 雅晴(ふかやま まさはる、41歳)
相談内容:
先生、日本の夜明けはまだまだですが、今年もよろしくお願いします。
さて、わが亀山物産は、社運を懸けて、友人の賀川輝之君が経営している土佐商事から、その子会社の株式を買い取って多角経営に乗り出そうと考えております。
というのも、わが亀山物産は、10年以上前から土佐商事の株式25%を保有しているのですが、土佐商事は、東京証券取引所第1部で株式を公開している海運会社、三友商会の株式を53%保有しているけど、これからは造船業に専念するとのことで、その売却先を探していたところだったのです。
でも、株式公開企業の株式を証券取引所の外で買う場合、TOBとかいうややこしい手続が必要というじゃないですか。
しかも、三友商会は海運業ではトップクラスの企業ですし、外資系の大手同業も狙っているらしく、マゴマゴしていたら先に買収されてしまいます。
ところが、わが亀山物産には、ガツガツとド営業をする連中は多いんですが、こういう細かい手続きに関わる仕事はみんな苦手でして。
何とか、ややこしい手続きなしに、ちゃっちゃと三友商会を買収してしまう方法ってないですか、先生。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株式公開買付け(TOB)とは
近年、アクティビスト・ファンドによる企業買収劇などで注目を集めている株式公開買付けですが、TOBとは、公開買付者が、対象となる企業の株主と証券取引所の外で行う株式の買い付け行為であって、短期間のうちに会社の支配権に影響を及ぼすような量の株式の取得を行う取引をいいます。
公開買付者によって、対象となる株式会社の支配権が移動することから、経営陣やステークホールダーズにとってみれば今後の経営方針に重大な影響を及ぼす行為になります。
また、支配権が移転する結果、公開買付者の事業とのシナジーなどによって対象となる企業の価値が増大することが見込めますので、公開買付者がTOB価格を決めるにあたっては
「コントロールプレミア(通常の企業価値に加えて考慮される経営支配権に対する上乗せ価値)を既存株主に公平に分配するべき」
という考え方が働き、株主にとっては株価の上昇も見込めることになります。
このような観点から、金融商品取引法は、TOB実施に際し、一定の情報を開示するよう義務付けるなどの規制を設け、取引の公正と既存投資家の保護を図ることとしました。
ただし、証券取引所外での株式の買い付け行為のすべてに上記の義務や規制が課せられるというわけではなく、
1 一定数以上の者からの買い付けであって、買い付け後の株式保有割合が5%を超える場合
2 一定数以下の者からの買い付けであっても、買い付け後の株式保有割合3分の1を超える場合
3 証券取引所内の株式の買い付けであってもToSTNetなど一定の取引を利用し、買い付け後の株式保有割合3分の1を超える場合
4 3カ月以内の短期間に、合計10%を超える株式を急速に所得する場合で、そのうち5%以上が証券取引所外での取引などであって、且つ買い付け後の株式保有割合3分の1を超える場合
に限って、いわゆるTOB規制が発動されることになります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:TOBの原則と例外の立て付け
なお、これまで(平成18年改正前)は、原則として、証券取引所外での株式の買い付け行為すべてにTOB規制が課せられ、例外が個別的に列挙されるという立て付けをとっておりました。
すなわち、これまでは列挙された例外に該当しなければTOB規制が適用されるという立て付けでしたが、改正により、TOB規制の対象となる買い付けも正面から個別的に定義し列挙した結果、
1 まずは、列挙事由に該当するかどうかを検討し
2ーア 該当しない場合には、例外を検討するまでもなくTOB規制は課せられない
3ーイ 該当する場合であっても、例外に該当する場合にはTOB規制は課せられない
という順序で検討することになります。
モデル助言:
亀山物産が、三友商事の株式の53%を保有する土佐商事から当該株式全部を買い付ける場合、先ほどの②に該当しますので、原則として、TOB規制が課せられることになります。
しかしながら、亀山物産は土佐商事の25%の株式を保有していることから、亀山物産にとって土佐商事は、金融商品取引法27条の2第7条1号にいう
「特別関係者」
になります。
この場合、土佐商事からの三友商会株式の買い付けは、TOB規制の例外に該当すると考えることができます(同法27条の2第1項但書。内閣布令3条1項)。
これは、上記のような特別関係者は、亀山物産との関係において三友商会を
「共同所有」
しているとみることができ、既に支配権が確立しているため、TOB規制の目的である取引の公正さや投資家保護を考慮する必要がないからです。
ま、どうやらTOBは必要なさそうですが、念のため、財務局に解釈確認のための電話照会をしておきましょうね。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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