00163_企業法務ケーススタディ(No.0118):製造委託先へのボリュームディスカウント要求の問題点

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
大三和土(オオタタキ)商事株式会社 代表取締役 大三和土 修治(おおたたき しゅうじ、85歳)

相談内容: 
わが社が社名にちなんで開発した、腹をペシペシ叩いて脂肪の燃焼を促進するという
「おおたたきスティック」
なんじゃが。
そんなに売れないと思っていたこの製品、テレビ通販で宣伝したら、ブームになって、今では、作れば作るだけ、飛ぶように売れていきます。
欠品なんて事態はあってはいけない、ということで、製造委託していた業者に、ガンガン追加発注をかけているというわけですじゃ。
発注先の製造業者は、どこも中小企業で、生産ラインを稼働休止として死にそうになっていた連中ばかりで、予定を上回る注文を受けて、そこそこ潤っているはずです。
もともと、製造業者に発注した単価は、テキトーに設定したものです。
こーんなにたくさん発注するのだったら、ボリュームディスカウントで値引いてもらわないとワリに合いませんわな。
そこで、今まで発注していた分も合わせて、単価を下げてもらおうと思って、下請業者からは、
「販売促進費」
とかの名目でキックバックをもらおうと思っとります。
ギャーギャー反対するんだったら、そんな業者ぶったぎってやりますわいな。
どこでも作れる単純な製品ですからな。
この製品は私の花道を飾る事業です。
あとは業界団体の会長やらせてもらって、念願の勲章もらって引退ですわ。
はーははははは。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:知らないと違反しがちな下請法
市場において価格と品質を自由に競わせる原理(自由競争原理)は、資本主義経済体制を採用するわが国において、国是ともいうべき重要なドクトリンです。
とはいえ、自由競争も、度が過ぎれば
「一部の強大なプレーヤーが市場を勝手に操り、自由競争の基盤を破壊して、かえって経済の発展を困難にする」
という弊害を招きます。
そこで、法は、
「市場における一部の強大なプレーヤー」
が自由競争の基盤を破壊するような横暴な行為を、取引社会の健全な発展のため、例外的に禁止しています。
このような規制は、独禁法
「不公正取引の禁止」
が有名ですが、独禁法違反で処理をするには時間を要します。
そこで、
「強大な発注者側企業が、下請業者に対して、無理難題・暴虐の限りを尽くし、能率競争に基づく経済の健全な発展を害するような事態が生じる」
と一般的に想定される事例を類型化し、簡易迅速な手続でこのような事態を適正化することを盛り込んだ
「下請代金支払遅延等防止法」(いわゆる「下請法」)
が制定されています。
下請法では、下請業者に対して従前要求されがちであった11種類の不公正取引行為を禁止しており、これに違反すると、公取委から是正勧告がなされ、違反内容等とともに会社名が公表されます。
同法4条1項3号は
「下請代金の減額」
を禁止しており、下請業者にキックバックを支払わせる等の行為も、この
「下請代金の減額」
となるとされていますので、下請法違反となるのが大原則です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:ボリュームディスカウントの要件
ところで、下請業者に対する発注数量が、当初の予定よりも増えた場合には、その分価格を下げてもらう(ボリュームディスカウント)ことにも合理性が存在するところです。
そこで、公取委は、
「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」
において、例外的に、ボリュームディスカウントについて以下のような要件を定め、これらを充足する場合には、割戻金を下請業者に払わせても、代金減額禁止に当らないとしています。
「1 ボリュームディスカウント等合理的理由に基づく割戻金であって、
2 あらかじめ、当該割戻金の内容を取引条件とすることについて合意がなされ、その内容が書面化されており、
3 当該書面における記載と発注書面に記載されている下請代金の額とを合わせて実際の下請代金の額とすることが合意されており、かつ、
4 発注書面と割戻金の内容が記載されている書面との関連付けがなされている場合には、
当該割戻金は下請代金の減額には当たらない。」

モデル助言: 
今回のケースは、運用基準の要件のひとつである、
「2 あらかじめ、割戻金についての合意が書面化されている」
という部分を満たしていないですね。
さらに、キックバックの計算方法によっては、
「1 合理的理由に基づく割戻金」
にあたらない可能性もあります。
下請法で禁止されている事項については、公取委が定めた例外要件をきちんと満たしていないと、あとから公取委にお叱りを受け、社名公表され
「公開羞恥プレー」
の憂き目に遭います。
実際、2007年の6月、下請業者と覚書を締結した上で、下請業者に割戻金を支払わせていた冷凍食品会社のマルハニチロ食品が、下請代金減額禁止に違反したとして勧告を受け、社名を公表されています。
ちなみに、
「社名公表ぐらい、屁でもないわ」
と思っておられるかもしれませんが、この種の社名公表措置を食らうと、“勲章行政”運用上、まず勲章がもらえなくなりますので、勲章をもらって人生の花道を飾りたいのであれば、まあ、あまりエゲツナイことは止めた方がいいですね。
下請法で禁止されている事項は、文字通り原則禁止であり、公取委の運用基準を厳格に守ったケースのみが許される、という運用になっていますから、下請法に触れそうな行為を行う際は、事前に運用基準をしっかりと調べておく必要があります。
さっそく、公取委の運用基準を充足する契約書を作成しましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです