00168_企業法務ケーススタディ(No.0123):優越的地位の濫用に対するペナルティ

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ヨシダ電機 代表取締役社長 吉田 新太(よしだ あらた、45歳)

相談内容: 
友人から紹介されて、独禁法のご相談に参りました。
ウチは家電量販店を約70店舗展開していて、年商1千億円程度の、業界では、中堅程度の規模の企業です。
この不況で小売業界も大変ですから、納入業者さんたちとは、毎回、ハードな交渉を繰り広げています。
まあ、納入業者さんたちとしても、ウチと取引するからこそ、この不況の中でモノが売れるわけで、もちつもたれつといったところですよ。
ウチだって、コストを掛けて消費者の動向を調べた上で最適の場所に店舗を構え、消費者が喜ぶような催事とかをいっつもやっているんです。
ちょっとぐらい納入業者さんに協力してもらってもいいじゃないですか。
だから、バーゲンとかがあれば、納入業者さんに従業員を派遣してもらったり、売れ残りを引き取ってもらってるんですよ。
以前、ウチの法務部長が
「納入業者さんに販売員派遣を強要したり、売れ残りの在庫を引き取らせたりするのは、優越的地位の乱用です。
コンプライアンス上よろしくありませんから、そろそろおやめになるべきです」
とか戯言いっていました。
バカいってんじゃねえよ、って感じですよ。
儲けさせてやっている納入業者に協力させることくらい、まったく問題ないはずです。
公取委に見つかっても、イヤミいわれるだけですよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:優越的地位の濫用に対する規制
経済の発展のためには、市場のプレーヤーたる契約当事者らが競争を続けることが必要であり、そのために、自由な契約交渉を行い、自由に契約を締結できるのが原則となっています。
ところが、弱肉強食の経済体制を放置すれば、かえって強者のみが勝ち続けて競争がなくなり、経済が発展しなくなります。
そこで、独占禁止法は、
「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して」
「正常な商慣習」
に照らし不当な取引をすることを禁止しています。
具体的には、優越的な地位を利用して、取引の相手方に従業員を派遣させたり、経済上の利益を提供させることや、在庫品を引き取らせることなどが、
「優越的地位の濫用」
として禁止されています。
公取委は
「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」
というガイドラインを作成しています。
これによると、
「取引の継続が困難になることから、著しく不利益な要請を受けても受け入れざるを得ない場合」
であれば
「優越的地位」
に当たるとされ、公正な競争秩序の維持から是認されるものが
「正常な商慣習」
であるとされています。
本件では、70店舗、年商1千億円と結構な規模の会社であり、納入業者としては言いなりにならざるを得ず、公正な競争秩序が維持できないことから、優越的地位の濫用と判断される可能性があるといえます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:独禁法2009年改正の中身
従前、独占禁止法は、優越的地位の濫用については、
「排除措置命令」(独禁法違反の行為を排除するために公取委が事業者に対して発令する措置)
のみを規定していたので、事業者は、当該行為を公取委の命令に従って改めさえすればよかったのです。
ところが、このような法律の下では、優越的地位の濫用を防ぐことができなかったため、独占禁止法は2009年に改正され、公取委は、優越的地位の濫用について、
「排除措置命令」
だけではなく、
「課徴金納付命令」
すなわち、課徴金を納付させる措置ができるようになりました。
これによって、優越的地位の濫用をした事業者は、優越的地位の濫用をした相手方との間の取引額の1%を、課徴金として国庫に収めることになりましたので、
「お叱りを受ける」
「謝れば済む」
わけではなくなりました。
改正独禁法は、
「優越的地位の濫用は割に合わない」
とすることで、優越的地位の濫用を、今までに増して強く禁止するようになったわけですので、従前の
「優越的地位の濫用は、大したことがない行為である」
との認識は改める必要があります。

モデル助言: 
今までは、
「契約自由の世の中、当事者が納得していれば、何の問題もない」
「優越的地位の濫用? そんなの、公取委に怒られたら、やめれば済む話でしょ?」
などと、軽く考える経営者の方々が多かったようにも思われます。
しかし、11年6月、関西地方の中堅スーパーが、優越的地位を濫用して、納入業者に特売品在庫の返品や特売時の繁忙期に従業員の派遣をさせていたなどとして、公取委から、
「2億円」
もの課徴金納付命令を受けることになりました。
09年改正独禁法の施行は10年1月1日からですが、同事件については、施行直後の1月から4月の行為について処分がなされており、公取委による厳しい姿勢が表れています。
「今まで、優越的地位の濫用については、課徴金制度なんてなかったじゃないか? 2億円なんて払えないよ」
などといっても後の祭りです。
御社が行っている行為のうち、優越的地位の濫用と判断される行為については、即刻、中止しましょう。
公取委が万一やって来たら、再発防止体制が整っていることをアピールして、何とか課徴金は勘弁してもらえるように説得できる材料を作っておくべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです