企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
株式会社World’s End 代表取締役 宮沢大助(みやざわ だいすけ、38歳)
相談内容:
ご存知のとおり、ウチは、命知らずのバイヤーが世界の果てまで行ってきて探した民芸品を、傘下のチェーン店
「World’s End」
で販売する、ゆう商売です。
今回、大手商社の渡辺物産の井ノ本ってゆうブっさいくな女のバイヤーが、アフリカの聞いたことない村から大量に仕入れてきた“木彫りのヘビ”の置物を200個安く売ってくれることになりましたんや。
ほんで、先週、商品が届いたんゆうんで、早速中身を見てみたら、“木彫りのヘビ”の頭が取れていたり、ごっつ嫌な匂いがしたり、“木彫りのクマ”みたいなのが混ざってたり、それにどう数えても120個くらいしか入ってないし、もう、何やワヤクチャになっとったんですわ。
とはいえ、次の日から家族旅行で2週間ほどハワイに行くところやったんで、
「文句は帰ってきてからいうたるさかい、ま、待っとけよ」
と思ってそのまま出かけたんですわ。
昨日、ハワイから帰ってきたんで、井ノ本呼びつけて
「あの商品はなんや! どないなっとんねん!」
って怒鳴ったら、あのアホ、シレッとして
「あれぇ~、もう2週間も何も連絡がなかったから、てっきり、お気に召していただいたものとばかり思ってましたよ~」
なんてなめくさった対応をしよるんです。
もう、こうなったら、イテまうしかないかな、と思てます。
先生、一発ドカンと法的措置を取ってやってください!
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:債務不履行責任の原則
頼んだ商品がまだ届かない、頼んだ商品が届く前に消滅してしまった、商品は届いたが数が足りない、といった
「債務者が債務の本旨に従った履行をしない」
場合を総称して債務不履行といいます。
そして、この債務不履行は、概ね、
1 例えば、12月24日までにケーキを届けるという契約において、24日を過ぎてもケーキが届かないといった場合の「履行遅滞」
2 例えば、神奈川県葉山の別荘を買う契約を締結した後に別荘が燃えてしまったといった場合の「履行不能」
3 例えば、赤ワインを10本頼んだのに、8本しか届かず、しかも3本は白ワインだったといった場合の「不完全履行」
に分類することができます。
今回のような“一部破損”や“数の不足”といった場合、前記3に該当すると考えられますが、このような場合、債権者は民法上、
「債務の本旨に従った履行を求める権利」
を行使し、完全品との交換を請求したり、足りない分の追完を請求することができます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:商人間取引の特則
以上は民法一般の話ですが他方、ビジネスのプロ(商人)同士の取引を規律する商法は特別なルールを定めています。
すなわち、商法526条は、商人間の取引について、
「1項 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2項 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があることまたはその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額もしくは損害賠償の請求をすることができない」
と定めております。
要するに、商法においては
「プロの商売人として取引を行っている者同士の取引の場合、商品を受け取った買主は、直ちにその商品の数量、品質等を検査せよ。
そういう大事なことを怠って、家族旅行等というどうでもいいことを優先するダメな商売人は法的措置を取ることは許さん!」
とされているのです。
モデル助言:
今回は、事態を放置せず
「“木彫りのヘビ”の頭がとれているから壊れていない商品と取り替えろ」
「頼んだ商品と違う」
「数が足りない」
といったことを、直ちに相手に通知すべきでしたね。
こちらが検査義務を懈怠している以上、商法の解釈上、相手に分がありそうです。
大事な商売をほったらかしにして遊びに行ったりするから、バチが当たりましたね。
とはいえ、何とかやり返したいですね。
商法526条の3項は
「売主がその瑕疵または数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない」
とも規定しています。
200個のところを120個しか郵送せず、しかも“木彫りのヘビ”に“木彫りのクマ”を混ぜてくるような売主ですから、場合によっては、数量不足等について知っていたにも関わらず、あえて送ってきたことも考えられます。
また、
「ごっつ嫌な匂いがする」
とのことですので、“木彫りのヘビ”の胴体部分の“木の中身”が腐っているのかもしれません。この場合、
「直ちに発見することのできない瑕疵」
に該当することが考えられますので、商品が届いてから6カ月以内であれば別な商品と取り替えるよう請求したり、損害賠償請求することができる場合もあります(商法526条2項第2文)。
ま、このあたりをうまく使って相手に反撃してみましょうかね。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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