00181_企業法務ケーススタディ(No.0136):この作品の著作権は会社のもの? 制作者個人のもの?

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社ジャンルブレイカー 代表取締役 本川越 龍也(ほんかわごえ たつや、35歳)

相談内容: 
数年前までは地味なイタリアンのオーナーシェフだった私も、先生も知ってのとおり、深夜番組に出るようになってから、
「辛口の評価と芸人とのカラミができる料理人」
としてブレイクし、現在では、新しく立ち上げた会社で、さまざまな商品をプロデュースするようになってんだよね。
ちなみに、どう?
その
「コーラ&プリン」。
プリンの甘さの中にコーラの刺激を閉じ込めながら、コーラのカラメルをも利用しようって意欲作。
そうそう、今日は、プロデュース商品の上に、唐がらしをベースに俺のイケてる顔をデフォルメしたキャラクター
「ピリ辛たっちゃん」
の著作権について相談しに来たんだ。
このデザインは、日本で仕事を探していた中国人デザイナーに会社の手伝いをさせたときに作らせたものなわけ。
多分そいつが、俺が売れるようになったのを知って、コンビニとかで商品を見つけたんだろうね。
「“ピリ辛たっちゃん”は、昔私がデザインしたもの。
著作権は私にあるから使うな。
使いたかったら、金払え」
なんて連絡が来たんだよ。
「正規の従業員なら著作権は会社のモノだけど、私は、観光ビザで訪日してただけだし従業員の訳ないんだから私のモノ!」
とかいってんだけど、著作権ってそういうものなんですか?
給料払ってたのに、そんな言い種ありなの?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:職務著作とは
職務著作(法人著作)とは、従業員が創作した著作物について、使用者である企業に
「著作者」
の地位を直接与える制度です(著作権法15条)。
特許法にも類似の制度(職務発明)がありますが、こちらはあくまでも
「発明者」
は発明を行った当該従業員であり、
「職務発明と認められる場合には会社が相当な対価を従業員に支払って特許を承継する」
にすぎず、法人がいきなり
「著作者」
となる職務著作とは大きく異なっています。
このように著作権法において、著作者が
「会社」
とされているのは、会社のコスト負担の下で著作物が創作されているという経済実態はもちろん、
「著作物をライセンスする等のさまざまな利用場面では、権利者を法人にしておくほうが権利処理を簡素化できるし、便宜である」
ということに理由を求められるでしょう。
さて、職務著作となる要件についてですが、著作権法第15条1項を整理すると、
「1 著作物が法人等の「発意」に基づいて作られたものであり、
2 これが「法人等の業務に従事する者」によって、
3 「職務上」作成された著作物であって、しかも、
4 法人等が「自己の著作の名義」の下に公表する
ものであること」
が要請されています。
もちろん、雇用契約等で著作権の帰属について別途の定めがあれば別ですが、基本的には、
「使用者である企業が『~を作れ!』と従業員に命じて作らせ、その著作物に企業名を付して発表する予定」
であれば、職務著作が成立し、著作者は会社となる、と考えることができます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「業務に従事する者」
本件では、
「観光ビザで来ていたんだし従業員の訳がない!」
などという文句が付けられているのですから、デザイナーが、
「業務に従事する者」
に該当するかどうかが問題となります。
一般的に当該要件は、雇用関係にある従業員や役員であれば問題なく該当するとされていますが、本件では明確な雇用契約の締結もないようです。
このような場合であっても、形式だけを見て職務著作の成否を考えるのではなく、前記の職務著作制度の意義から実質を検討しなくてはなりません。
実際、同種事例において最高裁は、
「指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべき」(最判2003年4月11日)
として、形式ではなく実質を見るべきであると判断しています。

モデル助言: 
確かに、雇用契約書もないし、観光ビザで来ていたデザイナーだし、雇用保険の手続も踏んでいないなどということですから、形式だけを見れば従業員とは言い難いでしょうね。
そのような形式的価値判断から
「業務に従事する者」
にはあたらないとしたのが上記判例における高裁の判断でしたが、最高裁は、
「どれくらい指揮監督が及んでいたのか?
業務内容はどうだったのか?
しっかり実態を見ろ!」
と一喝して高裁の判断を破棄しています。
本件でも実態を見てみると、キャラクターのデザインだけが業務内容とされていますし、それの対価として毎月給料を支払っていたんですよね?
今は、労働法が問題となっているわけではなく、著作権法が問題となっているのですから、最高裁に従う限り、デザイナーは
「業務に従事する者」
に該当する可能性が大いにあると思いますので、このあたりを意識しながら、最高裁判例を提示しつつ交渉してみましょうか。
しかし、観光ビザで来たデザイナーをそのまま雇った形にしておくなんて、不法就労として出入国管理法違反等に問われかねない話ですから、別の意味で注意が必要ですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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