00201_企業法務ケーススタディ(No.0156):商標はワイのもんや!?

相談者プロフィール:
坂尾商事株式会社 代表取締役 坂尾 逸見(さかお いつみ、49歳 )

相談内容: 
せんせ、せんせ。
おう、元気やっとるか?
俺もなんとかやっとるで。
そんでや、今日はこれ見てもらおかと思て来たんや、商標の登録証。
まぁ、取引先の
「ホンコン株式会社」
が全然期限どおりに支払ってこんくてな、さらに、借金で飛びそうやったんで、借金のカタにこの登録証をもらってきたっちゅうわけや。
何の商標かっていうと、
「ものごっつぅええ」
や、どや!
しっかし、よう取れたでこんな商標。
ウチとしては、これ使こて、マッサージ機やらツボ押しの道具やらをシリーズ化してやな、未来永劫大儲けっちゅうわけや。
この立派な登録証、賞状みたいやろ。
まごうことなきほんまもんやで。
われながらええもん差し押さえたったわ。
俺も苦節10年? 20年? ま細かいことはええ、2番手3番手でなんとかこの経済社会を生き延びてきた。
でもな、これからはちゃうで!
俺が日本を引っ張っていくねん。
今日はセンセにこれを自慢しにきたっちゅうのが主な目的なんやけど、一応や、一応やで、先生の厳しい目からみても、この商標がしっかり俺のモンって言えるかどうか確認しといてもらっとこと思てな。
登録証は引き渡してもろうてるし、何の問題もないとは思てるんやけどな。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:商標権も財産権
「商標」
とは、商品を購入しようとする人やサービスを受けようとする人に対し、その商品・サービスを
「誰」
が提供しているのかをはっきりさせるために、業として当該商品やサービスなどに付けるマーク(文字、図形、記号、形状など)をいいます。
このような商標について第三者が勝手に利用すると、商標権者の信用を害するばかりか、その商標を信頼して購入した者の利益も害することになりますので、商標は法律によって保護されています。
すなわち、商標を取得しようとする者は、特許庁に対して、商標の登録の手続きを行い、当該商標を用いることができるのは商標権者のみということになるのです。
さて、消費者からすると、著名な商標が記載されていた場合には、深く考えることもなく
「あの会社が作っているのだから大丈夫だ」
などと一定の品質を期待しますので、商標には、
「信用」
が化体されているとも言えます。
そして、このような
「信用」
は経済社会では金銭的な評価が可能です。
いわゆる
「ブランド」
としての価値の一端を担うことになり、取引可能な財産権としての価値を有しています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:商標権の移転
それでは、このような財産的価値を有する
「商標権」
はどのようにして移転するのでしょうか。
財産権である以上、差し押さえや売買契約の対象になることはもちろんですが、売買契約を締結したり、登録証の引き渡しを受けただけでは、誰に対しても
「今日からは俺の商標だ」
と主張することはできません。
これは、前述したように、商標という権利が
「登録」
によって生じる目に見えない権利であるため、
「一体誰の権利なのか」
が、常に世間に公示されている必要があるためです。
したがって、譲渡等により商標権を取得したことを主張しようとする者は、特許庁において、移転登録手続きを経なければならないということになります。
要するに商標権では、
「誰が所有しているのか」
を証明する1つの手段として登録制度が採られているわけです。
このことは、
「占有」
の事実によって、
「所有権者は誰か」
が比較的目に見えやすい時計や宝石等の動産に関しては、このような制度が不要なことから理解されます。
さらに検討してみますと、不動産に関しては
「登記」
が必要なことはよく知られていますが、これは
「占有していても賃借人としてであり、所有者ではない」
という社会的事実が比較的多くみられ、所有者と占有者の分離現象が生じているために、登記制度によってフォローしようとしている、と考えることができます。

モデル助言: 
商標の
「登録証」?
いくら立派そうに見える証書でもそんなものその時期に商標として登録されたことがあったという証明にはなっても、御社が現在商標を所有していることの証明にはなりませんよ。
すぐさま、
「ホンコン株式会社」
と協力して移転登録手続きをしないといけませんね。
これは早くしないと、二重に譲渡されたり極めて面倒な事になりますよ。
しかし、借金のカタとして押さえてきたということになると、相手方の自発的な協力を得ることも難しいでしょうから、ここは、
「移転登録請求」
ということで訴訟手続きを利用したほうが早いかもしれませんね。
う~ん、最近では、いざ商標の権利行使をしようとしたら、無効審判を請求されてすぐ無効、などという事例も散見されますから、どの程度の価値のある商標かということをまずは慎重に見極めましょうか。
そうしないと費用かけて取得した商標が無価値、なんてことにもなりかねませんからね。
その上で、商標に大きな経済的価値がありそうだ、ということになれば、すぐさま訴訟を提起し、他にも売られて面倒な事になったりする前に、しっかりと財産権の確保をしておくこととしましょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです