00202_企業法務ケーススタディ(No.0158):商品パッケージの模倣

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
ジプシー製菓株式会社 代表取締役 三多摩 邦彦(みたま くにひこ、59歳)

相談内容: 
先生、浅草で売っている雷コンペイトウってあるじゃないですか。
あれって、実は、砂糖の水分を飛ばして固くする製法や、色合いをよくする製法とか、いろんな技術に特許があるみたいなんですってね。
で、昭和の初めの頃から、浅草の老舗のお菓子屋さんが販売している、神社の
「鳥居」
の形をした袋に雷コンペイトウをパッケージした商品が一番売れているみたいなんです。
それで、最近、浅草を訪れる外国人観光客の数も回復してきたみたいだから、当社も、それにあやかって、主力商品の砂糖菓子を
「鳥居」
の形をしたパッケージに封入して発売したんです。
確かに
「鳥居」
の形は真似しましたけど、もちろん、いちゃもんつけられないように、
「鳥居」
の色を赤ではなく、黄色にしたパッケージを使用することにしたり、そこら辺は、素人ながら工夫したつもりです。
そしたら、先日、浅草の老舗お菓子屋さんから、弁理士の資格を持った弁護士の名前が山ほど書かれた内容証明郵便が届いたんです。
いわく、
「著作権侵害だ、不正競争防止法違反だ、損害賠償だ、販売差し止めだ、刑事告訴だ」
とかって書いてあるんですよ。
はぁ~、これで大丈夫と思っていたのに、やっぱり、弁理士で弁護士の先生がいっているんですから先方が正しいんですよね。
素人の浅はかな考えじゃだめだったんですかね。
先生、もうだめです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:著作権の成立要件
そもそも、著作権とは、文章、音楽、美術、映画、写真、プログラム等の表現形式によって自らの思想・感情を創作的に表現した者に認められる、それらの創作物の利用を支配することを目的とする権利をいいます。
そして、このような保護を受けることができる
「著作物」
として認められるためには、法律上、
「思想または感情を創作的に表現したもの」
という要件があります。
つまり、著作物といえるためには、創作性が必須ということになります。
なぜなら、創作性がないものまですべて保護するとなると、第三者が同様の作品を創作したり利用したりできなくなってしまい、表現活動に著しい支障が生じるからです。
例えば、単に、他人の絵画を写真で撮影したものは、カメラを利用して被写体を忠実に再現しただけなので、創作性は認められません(東京地裁1998年11月30日判決等)し、
「表現が平凡で、ありふれたもの」
である場合も創作性は否定されることになります(東京地裁99年1月29日判決等)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:不正競争防止法上の「形態模倣」
次に、不正競争防止法についてですが、不正競争防止法2条1項3号は、
「他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡(中略)する行為」
を不正競争と定義し、模倣された者に対し、損害賠償請求や信用回復のための措置(販売差止など)を求める権利を付与しています。
なぜ、このような形態模倣行為を規制するかといいますと、要するに、商品を開発するには一定の資金や労力が必要となるわけですから、先行してこのような資源を投下して商品を開発したものを保護し、資源を投下することなく“フリーライド(ただ乗り)”する者たちを排斥しなければならないからです。
ところで、不正競争防止法2条1項3号がいう
「商品」
とは、商品自体に限られません。
その容器や包装など、当該
「商品」
と一体となって、商品自体と容易に切り離し得ない態様で結びついているものも
「商品の形態」
の一部として保護することとしています(大阪地裁96年3月29日決定)。
なお、このような形態模倣行為を
「不正の利益を得る目的」
をもって行った場合、
「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはこれらの併科」
という罰則が規定されています(不正競争防止法21条2項3号)。
ここでいう
「不正の利益を得る目的」
とは、公序良俗に反する態様で自己の利益を不当に図る目的をいうと解されています。

モデル助言:
まず、神社の
「鳥居」
の形をした袋に著作性が認められるか、つまり
「創作性」
があるかどうかについては、マユツバものですね。
特に、浅草の老舗お菓子屋さんのパッケージは、どこにでもあるような、ありふれた
「鳥居」
をパッケージにしただけですからね。
そこに思想または感情が表れているかどうかについては、十分、争える余地があると思いますよ。
また、不正競争防止法違反うんぬんについてですが、確かに、雷コンペイトウと
「鳥居」
の形をしたパッケージは、商品と一体となっているとも考えられますから、不正競争防止法上の
「形態模倣」
といわれても仕方がない場合もありますね。
実際、ジプシー製菓さんは“真似”したわけでしょ?
でも、
「鳥居」
の色を変えるなどして、消費者に
「誤認」
を与えないように工夫しているようですし、それに、そうそう、不正競争防止法19条1項5号をよく見てください。
「販売から3年が経過した商品」
については、損害賠償請求や差止請求による保護規定や、刑事罰の適用はないと書いてあるんですよ。
昭和の初めから販売しているんなら、とっくに3年はたってますよ。
はい、深呼吸して落ち着いて、
「何か問題でも?」
という反論文を返してやりましょう!

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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