00204_企業法務ケーススタディ(No.0159):抱き合わせ販売のリスク

相談者プロフィール:
和田昇降機メンテナンス株式会社 代表取締役 勝間 邦和(かつま くにかず、49歳)

相談内容: 
今日ご相談に来たのはですね、当社のやっている営業方法についての相談なんです。
ご存知のとおり、当社は、大手エレベーター製造メーカー・和田昇降機の子会社として、エレベーターメンテナンスをやらせていただいております。
正直、自社ではほとんど営業活動はしません。
「親会社のエレベーターが納入されたら、それにひっついていって、メンテナンスの契約をいつの間にかいただけてしまう」
というコバンザメ商売なんです。
それでですね、客が、
「エレベーター壊れちゃったので、保守部品だけくれない?
あんたんとこ高いから取り付けと保守は他に頼むことにするからさ」
なんて急にいうようになってきたんですよ。
不景気というか、世知辛いというか、何ともこすっ辛い話です。
こんなことされるとウチも商売あがったりです。
現場の担当者には
「最近エレベーター事故が発生しているのはご存知ですよね。
ウチが取り付けないと、安全性も保証できません。
どうなっても知りませんよ」
といって、取り付けとセットじゃないと部品販売を一切拒否するよう、指導しようと思っています。
実際、デタラメな取り付けがされて、事故でも起こされたらたまったもんじゃありませんから、別にこういうやり方でも問題無いですよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:抱き合わせ販売規制
人気のあるものと不人気のものを抱きあわせて販売してしまうこと、例えば、大人気のゲームを買うために、人気のないゲームを買うことを条件とするような行為は、一般に
「抱き合わせ販売」
と呼ばれます。
そして、かかる行為は、独占禁止法において
「事業者が、独占禁止法上不当に、主たる商品や役務の供給にあわせて、他の従たる商品や役務を、自己または自己が指定する事業者から購入させ、その他自己または自己が指定する事業者と取引するように強制すること」(一般指定第10項)
として規定され、違法行為として扱われています。
違法視される理由ですが、抱き合わせ販売行為は、不人気な商品の在庫を捌けさせることができ事業者には都合が良いのですが、買主は、たいして興味のない商品の購入が強制され、商品選択の自由が不当に害されていることが挙げられます。
加えて、本来的に魅力のない商品が、抱き合わせ販売行為により大量に売れることとなる点も根拠とされています。
独占禁止法は、品質や価格が市場により正当に評価されての競争(能率競争)を保護するものですが、抱き合わせ販売は、これを阻害することとなるため、法により禁じられているというわけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:東芝エレベータテクノス事件
さて
「抱き合わせ販売」
とされる独占禁止法上の要件についてですが、まず、行為要件として、別個の商品やサービス等の役務を併せて購入させることが必要です。
そして、問題になるのが、前記一般指定第10項にいう、
「不当に」
の解釈です。
これは、買主の商品選択の自由を侵害することや、能率競争の阻害をいうとされていますが、抽象的な要件ということもあり、個別の裁判例を検討していく必要があります。
同種の事例において、大阪高判1993年7月30日は、公正な競争を阻害するかが重要であると指摘した上、確かに安全性の確保も考慮することが必要な要素ではあるものの、
「(親会社の)エレベーターの保守に関しては90%の市場占拠率を有している」
から
「(当該)エレベーターの保守を一手に独占し、独立系保守業者等他の競争者を排除しようとの意図の下に本件各行為を行った」
と断じ、さらに、
「安全性確保のための必要性が明確に認められない」
ために、
「不当に」
抱き合わせ販売がなされた、との認定を行いました。
部品の供給と取り替え工事とは、それぞれ経済的には別個の事柄ですし、独立して取引の対象とされることからすれば、相当な判断といえるでしょう。

モデル助言: 
おっしゃるように、取り替え工事はエレベーターの特性を最も理解されている御社が行うべきだ、ということもよく分かります。
しかし、本当に御社でないとできない工事ですか?
安全性のためとか言いながら誰でも取り付けができるにもかかわらず納入を拒絶したりしていませんか?
本件では、大阪地裁が認定したように取引妨害に該当する可能性もありますし、事情によっては、優越的地位の濫用も問題になるものと思われます。
もっとも、先に述べましたように、
「不当性」
の判断は多分に事情に左右されますし、また、安全性の観点について考慮することも許されるという点の検討も忘れてはなりません。
ですので、御社が当該エレベーターの保守をどの程度占有しているか、また、今回の部品の交換がどれくらい専門性の高いものなのかを調査・判断する必要がありますね。
その結果として、御社が交換工事をしなければどうしても安全が担保できないという事情があれば、独占禁止法上の問題は生じにくいものと思われます。
一時的な利益を追求すると、独占禁止法違反として課徴金の制裁を受けることもあるので、これからの交渉についても十分慎重に行っていきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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