相談者プロフィール:
バンダム株式会社 代表取締役 岩井 おさむ(いわい おさむ、39歳)
相談内容:
先生、ボクのこと、まだまだ忘れてはいけません。
バンダムのプラモデルで、一躍、上場を果たしたバンダム株式会社のパイロット、じゃなかった、社長の岩井おさむです。
実は、一時のバンダムブームに乗っかって、上場したはいいけど、やっぱり、そううまくは続かないもんで、最近では、バンダム出撃の出番もないし売り上げも上がんないし、ほんと、困っていたところなんです。
最近、連邦軍の会合、じゃなかった、同業の会合に出たんですけど、やっぱり今は、プラモデルよりカードゲームばかりが流行ってるみたいで、他の会社もみんな苦しんでるみたいなんですよ。
それで、みんなで、何とかしよう、と話あった結果、ウチが持ってるバンダムのプラモデルの在庫を、在庫はウチの倉庫に置いたままで、ウチからA社、A社からB社、B社からまたウチへ売ったことにして、それぞれ売り上げを上げようってことになったんです。
そうすれば、売り上げが上がって証券取引所での株価評価も上がるし、銀行からの融資も受けやすくなるじゃないですか。
そしたら、ウチの艦長、じゃなかった堅物の監査役が、そんなことしたら証券取引所に大目玉を喰らうぞって、ボクを2度もぶったんです。
親父にもぶたれたことないのに!
先生、ボクは悪くないですよね!
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:循環取引の功罪
「循環取引」
とは、俗に、実際には商品を動かさず、伝票上だけで売買を繰り返し、複数の企業間で転売していく取引のことをいい、最終的に商品は最初の企業に戻ってくる点に特徴があります。
このような
「循環取引」
は、実際、放っておけば劣化してしまう在庫を売買することで売上高を伸ばすことができますし、自分が売却した商品を、再度、購入するまでの間(循環してくるまでの間)、短期的に資金を確保することができますので、商品代金を他の借入金の返済に充てることなどもできます。
さらには、売上高が増せば、
「将来性のある企業」
と評価され、銀行融資を受けやすくなる場合も考えられます。
このようなメリットがあることから、
「循環取引」
は、同じ業界内で在庫と資金の保有比率を適正に維持する商慣行の1つとして行われることが、ままあるわけです。
それに、商品の転売行為自体を直接的に違法とする法令はありませんし、
「循環取引」自体
を取締まる法的根拠もありません。
しかしながら、特に、証券取引所に株券を上場しているような企業の場合、投資家は、適正な事業活動によって企業が成長していると理解した上で投資判断を行うわけですから、単に、伝票を数社間で“廻す”だけのような取引実態を伴わないような
「循環取引」
で売上高を過大に計上していたのであれば、投資家にとってみれば、“騙された”ということになりかねません。
したがって、このような投資家の信頼を保護する必要がありますので、金融商品取引法は、
「資本市場(株式市場等)への正しい情報提供」
を確保するために、さまざまな規制を設けているのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:不適切な架空計上に対するペナルティー
実際に、2008年2月11日、実態のない循環取引を敢行して不正な会計処理を行い、さらにはこの不正な会計処理を基にした有価証券報告書を作成した等の罪で、東京証券取引所1部上場会社のシステム開発会社の経営陣が逮捕され、その後の12年12月13日、東京高裁が懲役3年の実刑判決等を言い渡しています(会社自体は10年9月に解散)。
また、10年には、大手ワイン製造会社の一事業部門が、循環取引等の架空の取引によって、総額約65億円の売り上げを計上していたことが発覚し、東京証券取引所から違約金の支払いを命じられるといった事件も発生しております。
このように、循環取引等の不正な営業活動を利用した
「ホラ吹き」行為
ですが、単なる
「見栄」「虚勢」
にとどまらず、投資家の判断を誤らせ、ひいては株式市場への信頼を根底から覆す危険な行為として、金商法上、非常に厳しいペナルティーを与えれる結果を招来します。
モデル助言:
確かに、不景気の中、何とか売り上げを伸ばしたいという岩井社長のお気持ちはよくわかりますし、それで、業界内が“うまくいく”のであれば、よし、としないでもありません。
しかしながら、上場企業のように、開示された情報の正確性を大前提とした取引(株式取引)が行われているような企業の場合には、それを信頼する資本市場や投資家を保護しなければならない、という別の観点も生じてきます。
最近でも、11年4月には、不正な会計処理に基づく有価証券報告書を提出したことで、ライブドア社(06年に上場廃止)の元社長に対する懲役2年6月の実刑判決が確定していることなども考えると、若井おさまるさんの場合も、ただ単に、上場廃止といった経済的なペナルティーだけでなく、懲役刑をくらってしまうこともありますよ。
上場廃止とムショ暮らしで“2度もぶたれる”よりは、監査役の鉄拳制裁で目を覚ましてください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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