00216_企業法務ケーススタディ(No.0171):債権譲渡をぶっとばせ

相談者プロフィール:
株式会社モーニングファーム 専務取締役 失口 真理(うせぐち まり、30歳)

相談内容:
私の父が創業しましたモーニングファームですが、現在、出戻りの私が取締役に就任して、牧場をイメージしたカントリーな洋菓子店
「プチモッニ」
を秋葉原に出店することになりました。
このお店は、これまで電気店の入っていたところを改修することにし、もう今週から工事に入ってもらっています。
城田設計事務所との工事の契約こそまだ結んでいませんが、工事をお願いするのを前提に、平成23年12月からずっと相談に乗ってもらっていて、お店のコンセプトとか何度も打ち合わせをしてくれていました。
本当に献身的で、やさしい事務所です。
しかし、城田は商才に欠けるのか、経営がうまくいっていないという話を度々聞いてはいたんですよ。
それが、昨日父がびっくりする情報を仕入れてまいりましてね!
タチが悪いって評判の梅田土建(以下、梅田)が、借金のカタに城田が今後うちに請求する予定の工事代金債権を質草に取った、ていうんですよ!
いやいや、工事だって始まったばっかりだし、まだきちんとした契約書だって作ってないのに、うちの工事代金債権を質に押さえたってどうゆうことですか?!
あんな乱暴な梅田がうちの債権者になんてなったりしたら、1回でも支払いが遅れたらお店をめちゃくちゃにされかねませんよ!!
城田設計事務所のままがいいんです・・・。
どうにかしてくださいよ~。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:将来債権の譲渡
本件のような工事代金債権や賃料債権等、未発生であるが、将来生ずる可能性が高いものを
「将来債権」
と言います。
将来債権は、発生するか否か不安定な債権であることから、債権譲渡契約を締結した段階では、その譲渡が現実的なものとなっていないとも考えられます。
しかし、このような不安定な将来債権であっても債権譲渡をすることは可能とされています。
裁判例においても
「将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の締結時において、右債権発生の可能性が低かったことは、債権譲渡契約の効力を当然に左右するものではない」
としています(最判平成11年1月29日)。
ところで、失口さんサイドでは、城田のこの契約における債権に譲渡を禁止する特約を付けることができます(民法466条2項)。
この点、譲渡された債権に譲渡禁止特約が付いていたとしても、譲受人が譲渡債権に譲渡禁止特約がついていたことを知らなかった場合、特約があったことを譲受人に主張することはできないとされています(民法466条2項ただし書)。
つまり、当該債権の譲渡禁止特約について、
「調べてもわかんなかったんだし、そんな勝手な取り決め、知るわけねえじゃん」
という状況であれば、特約にかかわらず、譲受人(梅田)は債務者(失口さん)に請求することができるわけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:譲渡後に付された譲渡禁止特約
ところで本ケースのように未発生の債権についてまで、片っ端から担保に取るというのはあまりにやり過ぎで失口さんに不測のリスクを負わせるとも考えられます。
将来債権の譲渡があった場合、債権譲渡時には譲渡債権は発生していないわけですから、当然譲受人(梅田)は、債権者(城田)と債務者(失口さん)がどのような契約を締結するかなど知る由もありません。
この点につき、東京地裁平成24年10月4日の裁判例では
「債権の譲渡禁止の特約についての善意(民法466条2項ただし書)とは、譲渡禁止の特約の存在を知らないことを意味し、その判断の基準時は、債権の譲渡を受けた時であるところ、本件請負報酬債権に譲渡禁止の特約を付する合意がされたのは、被告が本件請負報酬債権を譲り受ける契約を締結した後のことであるから、本件請負報酬債権の譲渡当時の被告の善意について論ずることは不可能であって、無意味というほかない。
したがって、本件債権譲渡契約により被告が本件請負報酬債権を取得したとは認められない」
と判断しています。

モデル助言: 
失口さんと城田との工事請負契約が締結されていなくとも、工事代金債権をあてこんで、城田が当該債権を知らない人間に担保に差し出すのは勝手というわけです。
しかし、当該債権が、城田から梅田に譲渡されてしまっていたとしても、これから城田とモーニングファームさんの間で締結する工事請負契約に譲渡禁止特約を付けてしまえば、梅田には当該債権の取得を合法的に妨害することができちゃいます。
後出しじゃんけんはだめですけど、後付け債権譲渡禁止特約はオッケー、てことなんですよ。
まぁ梅田には相当恨まれるでしょうが、発生していない債権をガツガツ担保に取るってのもどうかしてますから、お互いさまですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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