00225_企業法務ケーススタディ(No.0180):質権実行で企業を乗っ取れ!

相談者プロフィール:
株式会社ユナイテッド・マーケット 社長 沓川 慎二(くつかわ しんじ、24歳)

相談内容: 
お、先生、元気にやっとるやんかー。
俺も一応元気にやっとるよ。
と、思うやんかー?
実際はそうでもないんやけど。
ちょっとね、大切な取引相手にいやらしい人間が配置されて、冷遇されてるような気もしないでもないけれど、全力尽くすしかないから! 見といてや、しっかり儲けたるから。
俺は点取り屋やからな。
会社の話はそれくらいにしといて、今回はな、友人を助けてやろうかと思っててな、その方法についての相談やねん。
大切な友人やし、そいつに俺が個人的に貸付してやるんやけどな、まぁ親とかの個人保証は勘弁したる代わりに、念のため、あくまで念のためやで、そいつが経営してる会社の株式だけは質に入れてもらおうかなと。
いやいや、質入れくらい、うちの司法書士でも手続き整えられるから大丈夫やわ。
先生に相談したいのは、万が一、返済が滞ったときに、実際どうやって質権なんて実行すんのかってこと。
あいつからの返済が滞るなんてないとは思うんやけど、先生からはいっつも
「最悪の事態を想定するように」
って繰り返しいわれてるし、一応相談に来てん。
で、質権実行して株式取得しても多分たいしたことないよ、でもな、親しき仲にも礼儀ありやろ?
担保に出してもらうんなら実現性がないといかん。
ここんところ確認させてや。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株式担保
株式には経済的な価値がありますので、質入れや譲渡担保の対象となります。
ですので、株式を担保に差し入れることで、金融を得ることができるとされています。
しかしながら、非上場株式においては、株式市場に上場された株式のように評価が客観的に定まっているわけではなく、その株式の価値を算定することは極めて困難ですので、純粋に担保として用いられることはそれほど多いとは思われません。
一方で、M&A等の際には、後に質権を実行して支配権を得ることを想定に入れ、あらかじめ株式に質権を設定しておくなどという手段が用いられることがあります。
これは、株式の
「経済的価値」
というよりも、むしろ支配権につながる
「持分的価値」
に着目して質権設定がなされているということができます。
さて、ここで問題となっている株式の質入れの話について簡単に説明いたしますと、一般に、
「略式質」

「登録質」
の方法があるとされています。
株券発行会社においては、株券自体を担保設定時に引き渡すことで、質権者に株券の占有を現実に移し、簡易に質権設定が可能となります(略式質)。
一方、登録質は、これに加えて株主名簿に質権者である旨の記載を行うことで、会社に対しても質権者であることを明確に対抗可能とする形式を指します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:流質合意の原則的禁止
さて、質権を含む担保権の実行は原則的に
「法律に定める方法」
によって行わなければなりません。
担保権の実行は、要するに、強制執行を意味していますから、そのような債務者の権利義務に直接影響がある事柄に関しては、裁判所を通じた公平な形での執行がなされなければならない、ということを意味しています。
例えば、抵当権が設定された不動産が競売されるときに、必ず裁判所を通して行われるのはこの趣旨に基づいています。
そこで、質権に関しても、民法349条により、私的に
「質権者に弁済として質物の所有権を取得させ」
ることが禁止されており(流質合意の禁止)、このような裁判所を通じた強制執行手続を経ることが必要とされています。
非上場株式の強制執行について付言しますと、非上場株式の経済的価値を客観的に評価し、それを売却し、当該売却代金をもって債務に充当するという手続きを踏むべきことになりますが、そのいずれも裁判所関与の下で行わなくてはならず、株価の鑑定も含めると、多大な時間と労力と手続費用が必要となります。

モデル助言: 
質権の設定自体は司法書士とご相談されるということですから、それほど問題とは思いませんが、私人間の貸付の担保として株式に質権を設定する、というのは、質権の実行がこれほどまで手間がかかるということからすると、さほど効力があるとは思えませんね。
ただし、商行為によって生じた債権、すなわち、検討されている貸付が、商人が行うような商行為と見ることができる場合には、流質合意を行っても良いとされていますので、株式会社からの貸付にするなど、仕組みを検討し直す必要があります(商法515条参照)。
御社の取引の一環として貸付を行い、しっかりと担保も取得することで取引の合理性も確保しておく、ということにすれば、御社の
「業として」
貸付が行われることになりますから、合法的に流質合意を行うことができますし、その場合、万が一弁済が滞るようなことがあれば、相手方に通知を行うことで質権の実行を容易に行うことができます。
しっかりと事前に相談に来られて良かったですね。
後の無用な法務コストを減少させるというのは、まさに顧問弁護士冥利に尽きます。
今後とも、問題の大きさにかかわらず、ぜひ、事前に相談に来てください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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