相談者プロフィール:
株式会社J・J・J(ジェイ・ジェイ・ジェイ) 代表取締役 九藤 官宮鳥(くどう かんくろう、43歳)
相談内容:
先生、やっちまったよ。
とうとう食中毒を出してしまってね。
ナマモノを扱う回転寿司屋をやってる以上、いつかはこういう事態になると思ってたんだけど。
チェーン展開とかやり始めると、目が届く範囲にも限界があるし、ここらへんは仕方ないのかな。
いやいや、食中毒自体は大したことなくて、客のおばちゃん連中が多少腹をこわした程度。
もう全快してるし、大問題に発展するようなことではなかったんだけれど、複数人に生じちゃったから、メディア的には
「集団食中毒」
なんて呼ばれ出しててさ。
行政からは、食品衛生法に基づいて多少の営業停止とかくらうかもしんないけど、争いようがないし、ここを先生に相談しようとかいう話じゃないんだ。
とにもかくにも、被害者のおばちゃん連中がうるさくてね、返金はもちろんもうしてるんだよ?
なのに、
「体は全快したけど、心が痛い! もう怖くって回転寿司屋に行けない体になってしまったんだから、回転しない寿司屋に一生行ける分の金を慰謝料として支払って!」
なんて無茶なことをいわれてるくらいか。
でも、こういう事案は要するに
「平謝り」
しかないんでしょう? そういう文章作りとかに長けてるらしいコンサルタントをスポットで雇ったから、粛々と対応していくしかないかと考えてる。
先生にはずいぶんとお世話になってるからさ、問題が起きた以上は報告に来ないと、と思って、来たわけだけど、これでいいよね?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:法的責任とは
このような事態が生じた場合、経営者はどのように申し開きをするべきでしょうか。
経営者が考えなければならないのは、消費者の信頼を失わないことと、必要以上に法的責任を負担しないことです。
多くの事故は
「過失」
によって生じます。
法律は、一定の例外を除いて、
「過失」
によって生じた事故についての責任は負担すべきとしていますが、何の過失もないのに、被害が出た以上はすべて責任を負え、などという無過失責任は許していません(過失責任主義)。
そこで
「過失」
とは何か、が問題となるのですが、一般的には、注意義務に違反したことなどと定義されています。
要するに
「被害が予測されるような状況では、それを防止するべき具体的な義務があったはずなのに、それを漫然と懈怠した」
ということを指します。
この
「注意義務」
は、ビジネスの業態や、その時々の管理体制、担当者の能力等の様々な要因によって判断されますが、経営者が
「われわれの責任でした!」
と何の留保もなく言明してしまった場合には、
「経営陣は、危険な状況を理解していたのに何もしなかったから、責任がある、といっているのだな」
と間違いなく思われてしまいます。
要するに、
「過失があった」
と自白しているのと同じなのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:採るべき対応
このように過失を自白する対応は、法的責任(=民事法上の損害賠償責任や、会社法上の任務懈怠責任等)に直結するため、最も採ってはならない対応といえるでしょう。
もちろん、
「ウチにはなんの責任もない! 直前に食べた何かがよくなかったに違いない!」
みたいな客観的事実に相違する責任転嫁は、消費者の信頼を喪失することとなりますので、このような対応も採り得ません。
したがって、法的責任を基礎づける
「過失」
の自白にはならないように、でも、消費者に対する説明も一定程度は行っているかに見えるような、玉虫色の表現で釈明せざるを得ないのです。
もちろん、玉虫色とはいっても、法的責任に程遠いつっけんどんな表現から、一定程度は責任を認めて消費者に受け入れられやすい表現までいろいろありますので、その中から、法律家のアドバイスを受けながら適切な表現を選択すべき、ということになります。
モデル助言:
いきなり平謝りでは、おばちゃん連中の一生分の寿司代を負担しかねませんよ。
国会答弁や東京電力の回答内容を真似するんですよ。
ミサイルを
「飛翔体(ひしょうたい)」
って言ってみたり、原発事故が起こっても
「直ちには健康被害がない」
といって涼しい顔をしたり、
「虚偽表示」
を
「誤表示」
と言い換えたり、
「責任」
という言葉には常に
「社会的」
とか
「道義的」
とかいった形容詞をつけるなど、法的責任をいかにして回避するのか、
「巧言令色鮮し仁(じん)」
の標本みたいな表現を真似るんです。
だいたいこういうのは、東大法学部を出て
「言質を取られないようにするための弁解術」
という非建設的な作業に従事する
「プロ」
の連中が、優秀な頭脳をフル回転して作り上げた芸術的
「詭弁」
なんです。
食中毒ということですから、管理体制に問題があった可能性は否定できません。
ただ、どこに具体的な問題があったのかについて、現場の聞き取りも含めた詳細な事実関係の把握が必要です。
問題を特定した後に、当該問題部分に限ってのみ
「平謝り」
するのが王道です。
不誠実に見えないように調査のための時間を稼ぐことが、今やるべきことといえるでしょう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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