00231_企業法務ケーススタディ(No.0187):特商法規制なければやりたい放題!?

相談者プロフィール:
株式会社ゲット・フライング 代表取締役 大鳥 優子(おおとり ゆうこ、25歳)

相談内容: 
先生こんにちは。
今日ご相談に来たのはですね、新規設立する会社のことなんです。
ご存知かもしれませんが、私は昨年末にこれまで務めていた秋葉原電気という、電話やインターネットの回線業者をやめて、独立することにしたんです。
ま、今はやりの卒業ってやつですよね。
独立後は、プロバイダ業務を中心にやっていこうと思ってます。
電気通信事業者として登録もしました。
それでまだ独立後間もなくてそんなに人件費もさけないし、電話で勧誘して、あとは必要書類を送って、記入してもらったものを返信してもらうだけで手続き完了! 便利でいいでしょ? あとは、やっぱり目立たないと業界内のセンター・ポジションは取れないので、
「どこよりも安い!」
って謳うつもりです。
確かに、業界一安くするつもりなんですけど、それじゃ商売あがったりなんで、2年間契約してもらうことを条件にして、あとは24時間相談サポートとか高速保障とか付けて、うちに払ってもらうお金は多めに頂いちゃおうかな~、なんてプランで。
もちろん実際、ちゃんと工事もしますし、基本料金は業界一安くします。
電話で勧誘して書類郵送のみの手続きなんてほかの業者さんもやってることだし、別にこういうやり方でも問題無いですよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:特定商取引法の「電話勧誘販売」の検討
大鳥さんのように、商品を販売したり何かしらのサービスを提供することを目的として、電話で消費者を勧誘して、その後の手続きはすべて郵便で済ませてしまう取引を
「電話勧誘販売」
といいます。
電話勧誘販売は、買主が直接お店に行って何かを選ぶのと異なり、不意に電話で勧誘を受けることから簡単に購入を決定してしまったり、周囲に人がいないことから強引に商品の販売等を迫る業者等がいたりすることから、消費者を保護するために、特定商取引法という法律によって、事業者には一定の義務が課されています。
例えば、事業者は勧誘に先立って勧誘の電話であること等を告げなければなりませんし、契約等を締結しない意思を表示した者に対する勧誘の継続や再勧誘を禁止したり、契約内容を反映した書面の交付を義務づけたりしています。
そして最も大きな規制は、クーリングオフの規定を設けなければなりません。
つまり、電話勧誘販売を行う事業者は、消費者から契約から8日以内に契約の解除を申し込まれた場合、無条件でこれに応じなければならないのです。
ところで、大鳥さんの行うプロバイダ業務は
「通信事業」
に該当しますが、通信事業については、特定商取引法は適用外となっています。
これは、通信事業を行うための電気通信事業者としての登録プロセスが要求されることと関係しています。
すなわち、大鳥さんは、商売を始めるにあたって
「電気通信事業者として登録した」
といっているとおり、国が事業者をいったんチェックしていることから、
「(国からお墨付きを受けた)通信事業なら、無茶苦茶する奴はおらんやろう」
と思われることから、
「重ねて特定商取引法の適用までは不要」
と考えられているようです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:特定商取引法の適用を受けなければやりたい放題か?
では、通信事業者は、特定商取引法の適用を受けない以上、面倒な書面交付は不要、クーリングオフも適用なし、さらには再勧誘もOK、など
「何でもアリ」
ということになるのでしょうか?
答えはNO。
特定商取引法の適用対象は特定の商品・役務に限定されておりますが、この適用を受けない場合であっても、B2Cビジネスを広く一般に規制する消費者契約法が適用されます。
したがって、説明に嘘があったり、契約の重要事項について説明がなかったために消費者が勘違いして契約を締結してしまった場合には、消費者契約法に基づき取り消される場合があります。

モデル助言: 
確かに、大鳥さんがプロバイダ事業において、どんなヤンチャな営業活動もやりたい放題、と考えられるのも無理からぬところですが、消費者契約法は適用されますので、全く自由というわけではありません。
あまりにひどい場合、適格消費者団体が騒ぎ出し、差止請求がされることもあります。
実際、現時点では高裁段階まで勝訴しているものの、
「携帯の2年縛りはおかしい」
という理由で、携帯電話キャリアに対して、適格消費者団体が消費者契約法に基づく差止請求訴訟を提起した、という例もあります。
いまだ施行はされていないものの、昨年末には、消費者裁判手続特例法も成立しましたし、サービス提供事業者等が集まって作った
「電気通信サービス向上推進協議会」
という団体によって、再勧誘の禁止や説明事項を期した書面を原則交付することなどの自主基準が設けられました。
自主基準なので、
「違反しても問題なし」
といえばそれまでですが、裁判では相当不利に扱われることもありますから、よく注意してくださいね。
ま、価格と品質に競争力と魅力があれば、あまり無茶なことをしなくてもいいわけですから、そういうところで勝負されたらいかがですかねえ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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