契約書を作成する前提として、契約条件を具体化する必要があります。
こういう言い方をすると、
「言われなくてもわかっている」
というリアクションが返ってきそうですが、実務上、契約書の内容の問題以前に、取引設計レベルにおいて、契約条件が曖昧模糊としており、これが原因でトラブルに発展するという事例が多く見受けられます。
モノのやりとりや、登記段階で法務局によって明確化・具体化作業が必置となる売買等の物権行為や、債権行為の中でも、典型契約と呼ばれる民法でレディーメイドとなっている取引であればこのようなトラブルはあまり起こりませんが、非典型契約と呼ばれる、民法が予定していないタイプの契約が創造された場合、特に、買い手サイドにおいてリスクが高まります。
取引設計上、最も基本的かつ重要な事柄は、
「何を買うか」
を明らかにすることです。
すなわち、
「目に見えるものを買う取引」
については、取引対象について神経を尖らせなくても後でトラブルになる危険は相対的に少ないといえます。
ところが、
「目に見えない何かを買う取引」
の場合、そもそも取引構築以前の問題として、取引対象の特定が重要になります。
世の中には、ライセンス取引やオプション取引、営業権、代理店の権利、テリトリー権利、フランチャイズ権の取引、アドバイザリー契約等
「何を取引したのか、その対象自体よく分からない取引」
が横行していますが、こういうものを弁護士に関与させずに勧めると大抵ヤケドを負います。
この種の
「なんだかよくワカンナイ」
ものを買う取引において買う側は
「お金を払う」
という疑義を入れようのない明確な義務を負う半面、売る側の義務は
「何だかよくワカンナイもの」
を提供するだけです。
いつ提供が終わったか、どんな内容の役務が提供されたか、ということが曖昧で検証不能であれば、売り手側は、いくらでも手を抜けますし、サボれますし、いい加減なことが可能です。
こういう言い方をすると、
「そんな不真面目な人間ばかりではない」
というレスポンスが返ってきそうですが、契約の世界では、
「明確に指示されていなければ、いくらでも手を抜ける」
「禁止されてなければ、何をやっても自由」
というのが基本ルールであり、期待し、依存すべきは、相手の善意や誠実さではなく、言語による具体化・特定化であり、文書による明確化です。
約束が明確に決まっていないと、買う側は
「妄想を叶えてくれるべくありとあらゆることをしてくれる」
と考えますし、売る側からすると
「あまり過大なことを求められても困る」
と考えます。
両者の思惑が180度違った方を向いていて、齟齬を解決修正する契約文言が存在しない、あるいは緩いわけですから、紛争になるのは当然です。
そして、これらリスクは、
「買い手は注意せよ(Caveat emptor.英語では、 Let the buyer beware.)」
というローマ法以来のドクトリンに基づき、すべて、買い手、すなわち、カネを払った側が一方的に負担することになります。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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