資本主義社会においては、カネを持ってるヤツ、カネを出したヤツが一番エラい、というのがシンプルなルールです。
貧乏な芸術家に、シビれるくらいの大金を出して、絵画や彫刻を依頼して、作品の制作を委託した。カネに困っていた芸術家は、欣喜雀躍して、ひれ伏せんばかりに、制作を快諾した。
では、制作を委託した側は、出来上がった絵画や彫刻を、落書きしたり、一部を意図的に壊したり、好き勝手に、イタズラして構わないでしょうか?
資本主義社会の常識では、カネを持ってるヤツ、カネを出したヤツが一番エライ、ということですから、何をやっても許されそうな気がします。
ところが、この絵画や彫刻が著作物の場合、制作者の権利は、カネをもらって引き渡した後でも、ゾンビのように残存しており、制作委託した金持ちのやりたい放題を制限します。
すなわち、契約書上
「代金支払とともに全ての著作権を譲り受ける」
との約定を明記して、ある著作物の制作を依頼した場合であっても、カネを払って買い上げた側が勝手に著作物に変更を加えることができないのです。
画家に肖像画の制作を依頼して引渡しを受けた後、当該肖像画にヒゲやメガネや鼻毛を書き加えた場合、当該画家の著作者人格権の侵害という法的問題が生じます。
絵画や彫刻というと、ビジネスにあまり関係ないように思われがちですが、ウェブサイトのデザインも著作物と考えられます。
したがって、ウェッブサイトの制作も同様で、納入されたページデザインを勝手にいじったりすると、場合によっては制作を委託した業者から著作者人格権の侵害などとケチをつけられる場合が考えられるのです。
これを防ぐのはどうすればいいか?
著作者人格権自体は、著作物が誕生したら勝手に発生しますし、この権利自体を消し去ることができるかどうかは未解明なところもあるので、一番簡単なのは、権利があっても、これを使わせないように封印することがもっとも簡単な処置です。
そこで、実務的に使われる手法は、著作者人格権不行使特約と呼ばれるもので、制作委託契約の際に、この特約を盛り込んでおくと、資本主義社会の本来のルール通り、
「カネを払った人間が、買った著作物を、煮るなり焼くなり、いじくり回したり、落書きしたり、やりたい放題できる」
という設定にすることができます。
参考:
00072_企業法務ケーススタディ(No.0026):開発委託契約書はよく読むべし
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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