買収防衛策としては、今や新株予約権や種類株を使った非常に複雑なものが当たり前となっていますが、2000年代前半ころまでは、買収防衛策(買収対抗策)といえば第三者割当増資が最もメジャーな手段でした。
すなわち、決して裏切らないお友達に株式を大量に発行し、敵対的買収者の持ち株比率を下げるという手法です。
実際、敵対的買収のターゲットとなった企業が、ドンパチの最中に、敵対的買収者の株式保有割合を薄めるため、露骨な増資を行い、裁判沙汰になったケースがいくつもありましたが、こういう裁判例の蓄積により
「主要目的ルール」
というものが確立しました。
曰く、現経営陣が敵対的買収者の持株比率の低下と支配権維持を主要な目的とした増資はアウト、資金調達が主要な目的である場合はセーフ、というルールです。
主要目的ルールを前提とすれば、
「会社に具体的資金需要があり、その調達方法として増資を実施し、その反射的な効果として、乗っ取り屋さんの思惑が外れるような支配比率の変化が生じた」
というシナリオであれば、乗っ取り屋さんを追い払うことは可能ということになります。
他方、具体的資金需要がなかったにもかかわらず、有事の真っ最中に、降って湧いたように新しい事業計画や具体的資金需要をアピールしても、世間からも裁判所からも
「でっち上げ」
と思われてしまい、増資は差し止められます。
で、優秀な企業法務弁護士と契約している一部の賢い企業は、こういう点を踏まえ、各種ディスクローズの際に、検討している事業計画や当該計画に資金が必要なことや、さらには資金調達方法としてエクイティ・ファイナンスも視野に入れていることを、
「ほら吹き」
と言われない程度にアピールすることを実施しています。
つまり、こういうことを常日頃からアピールしておけば、いざ乗っ取り屋がやって来たときも
「前から言っていたとおり、ビジネスにカネが必要になったので、増資をしただけですが、何か問題でも?」
という形で、実質は買収防衛目的の大量の増資を実施することが可能となる、というわけです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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