わが国においては私的自治の原則が支配しており、私人間の法律関係は、それぞれの個人が自由意思に基づいて形成できるとされています。
この原則を支えるものとして、過失責任の原則というものがあり、自分の意思に基づく行為(故意)や、あるいはミスによって(過失で)行ってしまった行為以外については、なんら責任を問われないという原則が採用されています。
過失責任の原則が存在することで、人々は、自由に行動することが保証されるわけです。
そこで、不法行為に基づく損害賠償責任を定める民法709条は、
「故意又は過失」
の存在を要求しています。
それでは、
「過失」
とは具体的にどのようなものを意味するのでしょうか。
この点については、数多くの裁判例の積み重ねによって、
「損害の発生について予見できるとともに、予見する義務があった」
といえる場合であって、
「損害の発生を回避する義務があった」
のに、これを怠った場合には、過失がある、とされているところです。
交通事故に例えていえば、
「四つ角で、出会い頭に衝突する可能性を予測すべきであったし、予測することもできただろう、それなら、衝突を避けるために、ブレーキを踏んで、衝突を回避する義務があった。
それにもかかわらず、ブレーキを踏む義務を怠ったから、過失がある」
ということになります。
それでは、小売業者が販売した製品で事故が発生したケースでは、どのような場合に、小売店に過失があるとされるのでしょうか。
この点については、裁判例(東京高裁2006年8月31日判決)は、多種多様な製品を大量に仕入れて販売する小売業者の業態に配慮しつつ、
「その商品の性質、販売の形態、その他当該商品の販売に関する諸事情を総合して、個別、具体的に判断すべき」
としました。
例えば、問題となったストーブを5千台以上販売していた点や、ストーブの臭いについての苦情が20件以上あった点などを重視し同型のストーブが化学物質を発生させることが予見可能であるとともに予見義務があり、かつ、化学物質による健康被害の発生を防ぐ義務があったとして、スーパーマーケット側に過失があったと判断しています。
ストーブから発生した化学物質によって化学物質過敏症となった被害者への約555万円の損害賠償の支払を命じました(イトーヨーカドー事件)。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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