00484_辞めた取締役が競業をした場合の対抗策はあるのか?

株式会社の取締役は、会社との間では委任関係(会社法330条)にあり、会社に対し、善良な管理者の注意義務(善管注意義務、民法644条)及び忠実義務(会社法355条)を負っています。

すなわち、
「会社は、取締役を経営の専門家として信頼して業務執行を任せているのだから、会社の利益になるように忠実に働かなければならない」
ということです。

その上で、会社法は、取締役が会社と同じ種類の営業を行う場合は、事前に株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)の承認を得ることを要求しています(会社法356条1項1号、365条1項)。

これを取締役の
「競業避止義務」
といい、取締役在任中、勝手に競業会社を設立することは義務違反となります。

もっとも、取締役の競業避止義務は現役の取締役についての義務であり、退任後の取締役の場合、退任後の競業禁止特約が会社との間で締結されていなければ、取締役自身の
「職業選択の自由」(憲法22条1項)
との関係上、原則競業避止義務を負うことはありません。

ただ、退任後の競業会社設立が競業避止義務違反にあたらないとしても、在任中に従業員等に対して行った勧誘行為がまったく問題にならないというわけではありません。

在任中から、競業会社設立を目的として、従業員に強制にも近い引き抜き準備行為を行っていたなど、社会的相当性を著しく欠いた手段や態様による勧誘行為は、忠実義務違反や民法上の不法行為が成立し、損害賠償義務を負うことになる場合があります。

裁判例では、
「会社の取締役であった者が、同会社と競合するほかの会社の代表取締役となるに際して、従前取締役を務めていた会社の従業員らに同競合会社に移籍するよう勧誘することは、個人の転職の自由は尊重されるべきであるという見地から直ちに不法行為を構成するとはいえないが、その方法が背信的で一般的に許容される転職の勧誘を超える場合には、社会的相当性を逸脱する引き抜き行為として不法行為を構成する」
とし、営業社員による営業行為が主な業務であった会社において、退任取締役が、綿密な計画の下で秘密裏に、各営業所の全営業社員を対象として新会社への勧誘を行い、その結果大量の営業社員が移籍したとして、その退任取締役について、忠実義務違反、不法行為の成立を認め、引き抜き行為による営業損害につき賠償義務を認めたもの(東京地裁判決平成18年12月12日)などがあります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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