00527_企業法務ケーススタディ(No.0192):「社外取締役として関わっている企業が破綻し、株主代表訴訟を提起されたケース」を想定した予防法務テクニック

1 事例
「株式会社アキ代にオマカセ!(以下、「アキオマ社」)」
は、株式の100パーセントを和田アキ代が所有する人材派遣会社である。
アキオマ社には和田アキ代自身は取締役に名を連ねていない。
アキ代は、アキオマ社の社主として、いわば院政のかたちで自社を牛耳っているのであり、アキオマ社はアキ代が全権を掌握する典型的なオーナー会社だ。
代表取締役は峰竜介というこれまた典型的な佞臣タイプの名目社長。
代表取締役としての権威も権力もなく、アキ代の意向を正確に社内外に伝えるだけの
「性能のいいメガフォン」
である。
アキオマ社の年商は150億円。
なかなかの数字であるが、人材派遣業の粗利水準に比して、経常利益は非常に薄い。
支出が異常なほど大きいからに他ならない。
今回の主役、石田鈍一は、そんなアキオマ社の社外役員に就任した。
石田は、渋谷と六本木で不動産業「株式会社不動産倫理文化開発(以下、「不倫文化開発社」)」を経営する社長である。
毎年売上は大きく変動するが、平均すると年商15億円ほどの売上があり、主に水商売向けの賃貸物件斡旋では定評がある。
ところが、石田は、バブル期に海外不動産投資に手を出して大やけどを負い、また、政治に目覚めて選挙に出たが惨敗したり、プライベイトでも、離婚でモメたり、息子が警察のご厄介になるなど幾多の不幸が重なり、投資の負債やら選挙の際の借金やら離婚の慰謝料やら弁護士費用やら支出がかさみ、3年前には石田個人も不倫文化開発社もすっかり左前になっていた。
そんな中、石田が以前から知己を得ていた和田にお金の工面を泣きついたところ、
「じゃあ、うちの会社の社外役員をやればいいじゃない。
捨扶持と思ってちょっと面倒見てあげるわよ」
と提案され、二つ返事で引き受けた過去がある。
それからしばらくたってからかつての恋人からアイデアを得て始めた
「野菜のソムリエ」スクール事業
や、現在の夫人と共同で始めたゴルフスクールという2つの新規事業が大当たりし、不倫文化開発社はすっかり持ち直した。
しかし、従前の経緯で石田はアキオマ社の社外役員業務を引き続き行っていた。
社外役員業務といっても、月に1回、夕方にアキオマ社の会議室で1時間ちかく峰のつまらない話を聞いたあと、朝方までアキ代の飲みに付き合えば月額70万円ももらえるおいしいポジションだった。
昨秋、アキ代は初めてヨーロッパを訪れた。
単なる買い物旅行であったが、現地イタリアである男と知り合ってしまった。
スハダに柄シャツ、皮のジャケットを粋に着こなす、不良っぽいラテン中年を絵にしたようなイタリア人、ズラーロモである。
日本に在住経験のある彼は、日本語に堪能であった。
ラテン系男子特有のノリに一発でまいってしまったアキ代は、その後、1ヶ月に一度はイタリアを訪れることとなる。
ズラーロモがどのようにアキ代を想っていたかは知る由もないが、少なくともアキ代は彼に惚れてしまった。
4度目の訪問のとき、ズラーロモはアキ代にある計画を打ち明けた。
ズラーロモ「洋服や靴のセレクトショップをやりたいんだ」
アキ代「いいわよ、やってみれば。お金のことは心配しなくてもいいわよ」
ズラーロモ「グラッチェ、アキ代。愛してるよ」
帰国後、アキ代は峰を呼んだ。
アキ代「イタリアに進出するわよ」
竜介「イ、イタリアですか?」
アキ代「そう、イタリアよ。なんか問題でもあるの?」
竜介「イタリアで何をするんですか?」
アキ代「ショップに決まってンじゃないのよ」
竜介「イ、イタリアで?」
アキ代「ちゃんと仕切れる人間があっちにいるから大丈夫よ。なんか文句あんの!」
アキ代「それと、イタリアとの往復もかなりの数になるから、プライベートジェットを買うわ」
竜介「プ、プライベートジェット!! いくらすると思ってるんですか?」
アキ代「知らない。いくら?」
竜介「20億円はしますよ! そんな大金使ったら、いざというときの備えがなくなり、大変なリスクとなりますよ」
アキ代「いざというときは、銀行でもなんでも借りてくればいいでしょ! とっととやんなさいよ」
竜介「・・・はい」
峰は暗澹たる気分になった。
もはや道楽を超えている。
しかし、オーナーには絶対服従だ。
やるしかない。
こんな状態で、峰は、総額40億円もの予算を確保し、社内では
「アモーレ」
というコードネームが付されたイタリアプロジェクトを取りまとめた。
そして、峰は、定例の取締役会議の際、経過を説明した。
「セレクトショップ? しかもイタリアで? なんでそんなことをやるんですか?」
と、当たり前の質問をしたのは社外取締役の石田鈍一だった。
峰は、
「オーナーの決定です。答える必要はありません!」
といって睨みつけた。
こちらもこれまでの恩義がある手前、強く反対することもできなかった。
石田はそのまま沈黙してしまった。
ところが、ズラーロモはとんだ食わせ者だった。
現地法人を作り、ミラノに本店を構えたが、事業が軌道に乗らない間に、フィレンツェとヴェネツィアにも支店を出した。
それができたのは、プライベートジェットを担保に多額の融資を取り付けことによる。
しかし、もとはといえばその日暮らしの単なるジゴロである。
ビジネスのセンスなど皆無。
売上も満足に立たないのに、ただただ経費を使いづけるだけで、そのうち、ホテルオーナーの別の金持ち日本人女性と交際をはじめるや、飽きて店にも顔を出さなくなった。
やがて、アキオマ社の借金は膨らんでいき、またアキ代の強烈な独裁ぶりに社員がどんどん離反し、ついに200億円に近い負債を抱え、破産した。
そんなある日、石田鈍一は、債権者から損害賠償請求をされた。
「オレ? マジ? なんで? オレ、単なる社外役員だよ」
アキ代は人材派遣会社以外にも化粧品会社等多数の会社を所有しており、破産直前に、峰に株を押しつけ、アキオマ社は
「株式会社竜介におまかせ!」
に商号変更した上で、ゾンビ会社として幽霊のように存在するが、逆さにしてもホコリも出ない状態で、債権者も相手にするのをやめてしまっている。
「なんでオレが? オーナーだろ、責任は・・・」
裁判は進んでいった。
残念ながら、かなり雲行きが怪しい。
このままでは、多額の賠償責任を負い、すっかり立ち直り優良企業となった不倫文化開発社が債権者の手に落ちてしまいかねない。
果たして、石田はなぜこんな事態に陥ってしまったのだろうか?
何が悪かったのだろうか?
これを回避する術はあったのだろうか?

以上のケースを前提に、ここでは、石田鈍一氏の立場に立って、同様の事態に陥らないための、予防法務、さらにはその前提として、正しく不安に感じるための状況認知能力を実装するためのリテラシーを述べていきたいと思います。

2 問題を理解するための前提リテラシー
今回の石田鈍一さんをとりまく問題ですが、この問題をきちんと整理して理解するには会社法の知識が不可欠です。
そこで、今回のケースでは、まず会社法のお勉強から始めたいと思います。
「そんなの知ってるよ」
とか言われそうですが、大抵のビジネスマンや経営者の方はおそろしく会社法に無知です。
弁護士になるには司法試験にパスする必要がありますし、公認会計士になるにも公認会計士試験にパスする必要があります。
ところが、会社の取締役や株主になるには、何の試験も必要ありません。
そんなわけで、そもそも法律的にどういう仕組であるか全く知識なしに、多くの方々が出資をしたり、役員になったりされていますし、こういう知識の欠如が多くのトラブルの根源になっています。
で、トラブルになる人の傾向を見ていると、大抵は、
「実は会社法につき全くの無知なのに、経験からなんとなく知っている、という心理状態のまま法律行為に突入し、足元をすくわれる」
というのがパターンです。
ですので、商法を究めた人は読みとばしていただいて結構ですが、多くのビジネスマンや経営者のために、会社法の基礎を述べたいと思います。
まず、会社の種類ですが、会社には4つの種類があります。
合名会社、合資会社、合同会社、そして株式会社です。
みなさん、これらの違いってわかります?
これらの違いを説明するには
「有限責任」
「無限責任」
というものを理解する必要があります。
会社が倒産した場合に、出資者が出資した金額を損してしまうのは当然として、それ以上に、債権者(金貸しや使用人や取引先)からの請求に対して責任を負うかどうかというのが
「有限責任」
「無限責任」
の理解のポイントです。
無限責任というのは、上の例で、
「会社が倒産し、出資金額を食いつぶしても債権者への支払ができなかったら、出資者がケツをもつ」
という責任形態です。
有限責任というのは、上の例で、
「会社が倒産しても、出資者は出資金の限度でしか責任を負わないので、最悪、出資金が戻ってこないことさえ覚悟すれば、それ以上債権者から追及されることはない」
という責任形態です。
この責任形態の区別をもとに説明しますと、
合名会社とは、出資者は連帯して無限責任を負う法人形態、
合資会社とは、無限連帯責任を負う出資者と有限責任を負う出資者が混在する法人形態、
合同会社と株式会社は、出資者は例外なく有限責任しか負わない法人形態、の会社です。
こんなこというと、
「ウソだよ、そんなの。中小の株式会社が破産すると、オーナー社長は一緒に破産するじゃないか」
とかいうツッコミが入りそうです。
この現象は、中小企業においては、オーナー社長は連帯保証をしているからです。
すなわち、銀行等は、上記の有限責任制度を前提とした上で、株式会社の出資者が享受している有限責任のメリットを、
「連帯保証」
という別の契約法理によって、放棄させているのです。
今回のケースにおいては、和田アキ代はオーナーでありながら会社が左前になっても一切責任を負いませんでしたが、まさにこの
「有限責任」
という仕組に基づくものです。
おそらく、和田アキ代は、アキオマ社創業期において差し入れていた連帯保証を、すべて外させるか、連帯保証人を峰竜介に変更していたのでしょう。
「会長」
だとか
「社主」
だとかの肩書で、どんなに会社の運営に肩入れしようが、個別に連帯保証しない限り、
「出資者=有限責任(出資金を超えた債務は無責任)」
との理屈が優先します。
会社の運営機関は、よく国の政治機構にたとえられます。
日本の国の政治システムはなかなかわかりにくいですが、法律的にとらえると実に単純です。
すなわち、日本の政治は、

  • 国民が自分の意志を代弁してくれる代表(国会議員)を選び
  • その選んだ代表があつまる会議体(国会)が多数決で国の代表(内閣総理大臣)や国の運営の重要なルール(法律)を決め
  • 国の代表(内閣総理大臣)が法律を執行し、
  • 裁判所が事後的、後見的に法律の執行状況や、法律そのものが問題ないかどうかチェックをする

というシステムを採用しています。
株式会社(一般的な株式会社形態である取締役会及び監査役設置会社)もこれと同じで、

  • 株主(国民)が自分の意志を代弁してくれる代表(取締役)を選び
  • 取締役があつまる会議体(取締役会)が多数決で会社の代表(代表取締役)や会社運営にかかわる重要な意思決定(取締役会決議)を行い、
  • 代表取締役が取締役会で定まった内容を遂行し、
  • 監査役(裁判所)が、代表取締役や取締役が法令や定款に違反するような行為を行っていないかどうか、チェックする

というシステムを採用しています。
会社の代表取締役って独裁者のイメージがありますが、実は、取締役の選挙によって選ばれているに過ぎません。
ですから、大昔、某有名デパート会社であったように(最近では、某大手通信機器メーカーや、某超大手自動車会社でもあります)、ワンマン社長がある日突然解任されることだってあります。
なお、最近では、執行役制度や委員会制度というのが登場しましたが、多くの会社で採用されているのは上記のようなシステムです。
一般に会社を切り盛りする人として話の中で社主や会長や社長や重役ってのがでてきますが、会社法の世界では、取締役、代表取締役や執行役というタイトルにしか意味がありません。
例えば、会社間取引で、会社の中で偉そうにしている会長が
「○○株式会社会長△△△△」
と署名・押印しても、その会長が代表取締役でない限り有効な会社の代表行為とはなりません。
逆に、社主や会長や社長の前でもどんなにヘーコラしている副社長がいても、その人が
「代表取締役副社長」
というタイトルを持っている限り、10億円でも100億円でも会社を代表して手形を振り出せます。
このように、会社法においては、徹頭徹尾、形式タイトルがモノをいいます。
実際の会社運営と法的形式はかなり乖離することがありますが、このような乖離があるからこそ、
「法常識」

「一般常識」
のひずみを利用した会社の乗っ取り劇とか、クーデターとかが起こるわけです。
次に会社の取締役の責任についてです。
「会社で一番エライのは誰ですか?」
というと、たいてい
「社長」
とか
「会長」
とかの答えが返ってきますが、会社で一番エライのは代表取締役や取締役ではありません。
会社で一番エライのは会社の株式を持つ所有者たる株主であり、株主の意思決定機関である株主総会です。
代表取締役とか取締役ってエラそうに見えますが、株主総会で選ばれなければただの人です。
また、株主がムカつけば、取締役や代表取締役といえども、いつなんどきでもクビを切られても仕方がない、そんな存在なのです。
当然、代表取締役や取締役だからといって、会社を私物化していいわけはありません。
報酬すらも株主総会で決議される建前になっています。
会社を私物化したり、アホなことをして迷惑をかければ会社に賠償をしなければなりません。
これが取締役の会社に対する責任といわれるものです。
取締役が会社に損害を与えておきながら素知らぬ顔を決め込もうとし、仲間の取締役からも
「身内びいき」
で責任追及されないとなると、株主が会社を代表して問題取締役に賠償請求をすることになります。
これが
「株主代表訴訟」
といわれるヤツですね。
それと、取締役が迷惑をかけるのは会社だけではありません。
取締役が放漫経営したことにより、取引先や顧客や株主等の外部の第三者に損害を与えることだってあります。
そういう場合、取締役は当該外部の第三者からも損害賠償請求を受けることになります。
ちなみに、報酬一定年数分を上限として制限することができるということをご存じの方もいらっしゃると思います。
だからといって、取締役の放漫経営や不当経営が自由にできるようになったわけではありませんので、注意が必要です。
すなわち、上記の責任制限はあくまで
「対会社賠償」
の問題にしか及びません。
すなわち、上記責任制限を活用しても
「対第三者賠償」
は青天井ですので、ご注意ください。
最後に、
「取締役のチョンボ」
の形態について。
さきほど、会社の重要な意思決定をする際は取締役会決議で決めるといいましたが、反対であればその旨きっちりと議事録に残しておくことが重要です。
過大な投資をしたり、アホなプロジェクトを立ち上げたり、骨董を買ったり、愛人の会社に大口発注したり、なんて話が出たときに、
「そんなのイケナイよ」
と反対したものの、
「いいじゃん」
「大丈夫だよ」
とかの大勢に押され、
「だめなんだけどなー」
といいつつ、議事録上
「満場一致で決議」
で記載されるなんてことはよくあります。
そういう場合、どんなに議事においてブーブーいっても、議事録に反対の旨を書くところまでフォローしないと、賛成した人間と連帯して賠償責任を負うことになります。

3 関係構築の設計方法(契約の設計)
石田鈍一さんは、知らない間に事件に巻き込まれ、損害賠償請求訴訟の被告となってしまいましたが、このようなトラブルに遭遇しないためにはどのような行動を取ればよかったのか検証してみたいと思います。
まず、和田アキヨからお小遣いのもらい方の検証です。
石田鈍一氏がお小遣いをもらうこと自体はよかったのですが、そのもらい方がまずかったといえます。
つまり、石田鈍一氏がコンサルティングや商品企画等の委託契約を発注してもらい、助言等を行いその対価として
「捨て縁」
を頂戴していればよかったのです。
「社外役員」
というポスト就任の誘いに乗ってしまったのがまずかったです。
社外役員とは、聞こえはいいですが、要するに実情を把握していない会社の経営に首を突っ込む役割であり、そこには当然責任が発生します。
株式会社制度とは、有限責任しか負わない出資者の組織、言い換えればものすごく無責任な存在であり、反面、そのような無責任な組織を動かす役員の責任は非常に重くなります。
そして、社外だろうが、社内だろうが、取締役なり監査役としての責任に差はありません。
たまにしか会社に来ない分、経営の動きが把握しにくく、社外役員の方が、
「知らない間に責任を負担する」
危険が大きいといえます。
ですので、石田鈍一氏としては、
「捨て縁がわりに小遣いやるから社外役員にでもなりなさい」
と誘われたら、
「助けていただけるのであれば、顧問とか企画アドバイザーとかで発注をしてください。
むろん、対価に見合ったご助言ができるよう務めます。
御社のような立派な会社の役員のポストはもったいないです」
とやんわりと断るのが紛争回避のための最適な予防技術であったといえます。

4 対会社責任制限の措置
次に、仮に役員に就任することになったとしても、就任前の措置として、
「対会社責任制限の措置」
をとっておくべきです。
これには定款変更の手続が必要であり一見面倒そうですが、アキオマ社のような株主が単独の会社だと非常に簡単なはずです。
逆に、こんなことさえ面倒くさがってしてくれないような会社に対してはたとえ小銭をもらっても役員に就任すべきではありません。
ただ、この措置を取ったとしても、前提理解編で述べたとおり債権者や株主から直接役員個人に対して損害賠償請求(会社法429条)に対しては、免責を主張できません。
ちょっと余談になりますが、予防法務能力を身につけることについてお話しします。

5 予防法務センスの磨き方  
予防法務のセンスというものを身につけるのはなかなか難しいです。
そもそも、予防法務のセンスは、多くの法律や契約法理を実体と手続の両面についてくまなく理論的把握するとともに、また大小の法的トラブルを臨床経験し、さらに他人の失敗を自分に置き換える想像力を駆使するなどして、はじめて築けるものであり、極めて特異な
「第二の天性」
です。
もちろん、われわれプロの弁護士は、人類の紛争経験知の集積たる実務法学理論を徹底して身につけ、さらに、日々他人の紛争を介入することにより場数を踏んでおりますので、一般の方とは違った目線で取引案件等にひそんだリスクを見つけ出すことができます。
われわれプロの弁護士と同等の予防法務能力のある企業経営者は非常に少ないと思われます。
その意味では、企業経営者が固有の能力として予防法務のセンスを発揮することは少なく、企業経営者でトラブルを避けるのがうまい方は、日頃から弁護士と密にコミュニケーションを取っておられ、疑問に思ったり、何か不安なことがあったら直ちに電話で相談され、リスクを芽のうちに摘み取られるという方法を採用しておられます。
逆に、弁護士とコミュニケーションが少ない経営者、簡単に他人を信頼してしまう経営者、取引をはじめとした経済事案を法的リスクの面から検証することを知らない経営者の方、さしたる警戒を払わなくても何事も簡単に成功すると信じてビジネスを進める経営者の方の多くが、法的トラブルに見舞われ、ビジネス界からの退場を命じられています。
弁護士とコミュニケーションを密にしたり、他人を信頼しなかったり、取引案件をいちいち時間とコストをかけて法的に検証したり、成功を信じている事業につき失敗の可能性をいろいろ想像してみたり、というのは実に面倒で負荷のかかる方法です。
とくに他人を信じないという生き方は精神面で大きな負荷がかかります。
ですが、何事も、大きな成功をなし遂げるには、面倒で負荷のかかる方法を選択するのが近道ですし、偉業をなし遂げた方は、皆、面倒で負荷のかかる生き方をしています。
その意味では、自分のビジネスプランが、雑で簡単なイメージでしか描けていない場合、その時点で大きなリスクをかかえているといえますので、専門家に相談するという、面倒で負荷のかかる方法を選択して、より緻密なものにしていくことが
「トラブルなき成功」
への近道と思います。

6 取締役として議題賛成にリスクを感じた場合の異議の留め方
話はそれましたが、石田鈍一さんケースにつき、予防法務編の続きを解説していきたいと思います。
今回のジェット機購入やイタリア出店の事業計画について、取締役会に議題として上程された状況において
「こんな投資の回収は到底見込めない」
と判断した場合、石田鈍一さんとしては直ちに、明確な反対の意思表示をしておく必要があります。
取締役としては、取締役会において決議に反対する自由を常に有しており、無謀な経営計画を討議した際、反対の意思表示を議事録にとどめておけば、当該決議に基づき生じた損害につき責任を免れます。
そして取締役会を欠席した場合や当該決議の際に異議をとどめなかった場合は、賛成した取締役と連帯して会社や第三者(債権者や株主)に損害賠償責任を負うことになります。
今回、石田鈍一さんとしては、ジェット機購入やイタリア出店の事業計画が討議された場合、「私はこれには反対ですので、その旨議事録にとどめてください」
と述べておけばよかったわけです。
「そんな雰囲気じゃなかった」
「代表取締役や社主に楯突くなど滅相もない」
などと遠慮するのが日本の典型的会社での
「取締役の美徳」
です。
しかし、そもそも、取締役は、会社という法人及びこれをとりまく株主や債権者等の利害関係人(ステークホルダーズなどといいます)に対して責任を負うべき存在であり、社長ないし代表取締役という特定個人の使用人ではありません。
もちろん、上記美徳の存在を主張立証したところで、法的には一切考慮の対象外ですし、問答無用で手続を打ち切られ損害賠償債務を負わされます。

7 究極のリスク回避方法としての取締役の辞任
最後に、
「三六計逃げるに如かず」
といいますが、この種の無謀な事業計画が浮上した場合、あれやこれや社内にとどまってがんばるより、辞めてしまうという方法があります。
「辞めてしまうと、せっかくもらった捨て縁にありつけない」
という思いもあるかもしれませんが、ここはリスクとメリットのバランスの問題です。
さらにいえば、取締役は辞任しておいて、顧問や外部コンサルタントでお金をもらったっていいわけですから。
取締役を辞めるには、辞任届を出せばいいのです。
しかし、登記するのはあくまで会社です。
会社が取締役辞任届を受理しながら、その旨登記せずに放置しておくと、第三者には会社の取締役を辞任したことを対抗できませんので、注意が必要です。

8 予防法務の極意
以上、いろいろと石田鈍一さんケースでの予防法務戦略をみてきましたが、もっとも基本的かつ有効な予防法務手段とは、法律をよく知ること(あるいはよく知っているアドバイザーを付けること)と、よく知らないまま行動しないこと、です。
「よくわからないままその場の雰囲気に流されるお調子者」
ってのが、法律実務においてもっとも不利を被る存在です。
でもこういう人って世の中にたくさんいらっしゃいます、いや、こういう人の方がマジョリティでしょう。
さきほど申し上げたとおり、何も考えずその場の雰囲気に流される生き方は、実に負荷のかからない楽な生き方ですし、人間も動物である以上、本能的に快が好きで不快を好まない選択をしますから。
本件における石田鈍一さんについてですが、
「この事業計画、ヤバイな」
と思ったところは評価できます。
ワンマン経営の会社だとトップの決断に疑問をもつことさえ困難な状況がほとんでですから。
ですが、そこから先にどういう展開が待っているかについて、商法や取締役制度を知らなかったことで想像できなかったことがまずかったわけで、結果として
「ま、いいか。
オレ関係ないし」
という態度でその場をやりすごしてしまった点に石田鈍一さんの予防法務政策上のミスがあったといえます。

【予防法務対応の極意】
一 巨額の損害賠償を避けるために責任制限の定めを設けることも大切だが、まずは、「取締役」が会社や第三者に対して重い責任を負っていることを自覚するべし!
一 取締役の意思決定を示す重要な証拠が議事録だ。役会の議題について、少しでも文句があるのなら、議事録へ異議を留める旨の記載を求めよ!
一 それすら叶わず、危険な意思決定の賛同や黙認を求められるなら、即座に取締役を辞任してしまえ!

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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