00635_霞が関文学・霞が関言葉

法律の無知や無理解は、法的リスクの正しい認識・解釈を阻害します。

そもそも、
「法律は、常識とは無関係に、特に、経済人・企業人のバイアスの塊である『経済常識』『経営常識』『業界常識』と、むしろ対立する形で作られ、遵守を強制される」
という前提が存在します。

商売の常識、健全なビジネス常識に基づく合理的行動の前に立ちはだかり、健全な企業活動(すなわち効率的で安全な金儲)を邪魔し、企業の足を引っ張る有害な障害環境、これが法律です。

その意味では、
「自分の常識なり感覚なりを信じる経営」
「迷ったら、横をみて(同業者の常識と平仄をあわせる)、後ろを振り返る(これまでやってきたことを踏襲すれば大丈夫と楽観バイアスに依拠する)経営」
が一番危ない、ということになります。

そして、さらに、
「法律」
という、
「特殊で難解な文学」
が、経営陣の法律の無知・無理解に拍車をかけます。

「霞が関文学」
という文芸ジャンルがあるのをご存知でしょうか。

これは
「霞が関言葉」
を用いた文書成果である、法令用語を指します。

この霞ヶ関言葉とは、お役人たちが使うような、
「ありふれたことを滑稽なほどまわりくどく、もったいぶって表現する言葉」
と定義されています。 

日常用語 霞ヶ関言葉
ゴミ 一般廃棄物
ビジネス街 特定商業集積
これから農業をやりたい人 新規就農希望者
マザコン 過度な母子の密着
外国語ブーム 語学学習意欲の高まり
クビになって職探しをしている人 非自発的離職求職者
みんな勝手にやればいい 各主体の自主的対応を尊重する
簡単な英会話ができるようにする 外国人旅行者への対応能力を整備する
普通のサラリーマンは家が買えない 平均的な勤労者の良質な住宅確保は困難な状況にある
転職しやすくする 人的資本の流動性の拡大のため環境整備を行う
エレベーターを入れる 円滑な垂直移動ができるよう施設整備を進めていく
家が狭くて子供が作れなくなっている 住宅のあり方が夫婦の出生行動に大きな影響を与えている

(出典:『中央公論』1995年5月号、イアン・アーシー著「『霞が関ことば』入門講座(前篇)」93ページ を元に筆者が作成)

例えば、

====================>引用開始
販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客から商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合(営業所等において申込みを受け、営業所等以外の場所において売買契約又は役務提供契約を締結した場合を除く。)若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客と商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合におけるその購入者若しくは役務の提供を受ける者(以下この条から第九条の三までにおいて「申込者等」という。)は、書面によりその売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、申込者等が第五条の書面を受領した日(その日前に第四条の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)から起算して八日を経過した場合(申込者等が、販売業者若しくは役務提供事業者が第六条第一項の規定に違反して申込みの撤回等に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は販売業者若しくは役務提供事業者が同条第三項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでに申込みの撤回等を行わなかつた場合には、当該申込者等が、当該販売業者又は当該役務提供事業者が主務省令で定めるところにより当該売買契約又は当該役務提供契約の申込みの撤回等を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して八日を経過した場合)においては、この限りでない。
<====================引用終了

という漢字がやたらと多い言語のカタマリを提示すると(これは、訪問販売における契約の申込みの撤回について定めた特定商取引法9条1項の条文です)、

これをみた企業の役職員の頭の中に投影されるのは、

「象形文字」の画像検索結果

となっている可能性が大きいです。

すなわち、法律という
「特殊文学」
は、普通の日本人が普通の日本語として、決して理解できないように作られているのです。

経営ないし企業運営は、常識ではなく、法律にしたがって行わなければならない。

しかし、当該法律自体、無意味な象形文字の羅列のようにしか表現されておらず、決して理解できるようなシロモノではない。

にもかかわらず、自分は
「ルールは理解している」
「法を犯しているはずなどない」
と盲信している。

そんな状況にある企業や組織がかなりの数存在します。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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