00648_合弁事業(ジョイントベンチャー、あるいはジョイベン)を行う上での法的リスクと予防・排除の基本(合弁契約作成の基本的方向性)

合弁事業については、例として適切とはいえませんが、犯罪も事業も、リスクのある行為を行うという点では同じなので、アナロジーとして、共犯事例を使って、解説します。

一般的に、共犯におよぶ場合、2人以上の者が、共同して犯罪を実行する意思を形成し、犯罪実現に向けて共同するという
「相互利用補充関係」
が形成されることで、単独犯の場合より犯罪成功の確率が高まると言われています。

例えば、1人でセキュリティのしっかりした銀行に対して強盗で押し入ろうとすると、準備や段取りが大変となり、また、脅している間に、多数の行員や警備員に反撃されて取り押さえられたり、あるいは、大量の現金をトロトロ持ち運んでいる間に捕まったり、と成功確率が大きく下がります。

他方で、映画
「オーシャンズ11」シリーズ
等をみても明らかなとおり、計画を練る人間、計画予算を調達する人間、カネを出す人間、セキュリティを破る人間、計画を実行する人間、カネを運ぶ人間、逃走を助ける人間と役割分担を行えば、準備や段取りもスムーズになって計画実現までの時間が大いに短縮されるほか、1人で計画・実行する場合に比べて成功確率は格段に向上します。

合弁事業であれ、共犯であれ、合理的思考の帰結として
「徒党を組んで、役割分担し、リスク分散し、全体成功率を高める」
という同様の選択を行うことは、十分うなずけます。

他方で、事業であれ犯罪であれ、誰かと共同で
「リスクがあるが、成功した場合の旨味もあるプロジェクト」
を行う場合、一人で行う場合とは違ったリスクも浮上します。

共犯の例を使って説明すると、共犯形態でリスクの高い犯罪を実行する場合、役割分担や犯行道具の準備の分担等の取り決めも大切ですが、決め事としてより大切なのは、途中で犯罪が発覚した場合の逃走ルートの確認や、誰かが捕まった場合の弁解のシナリオや、仲間割れをした場合の紛争の解決方法等
「ウマくいかなかったケースの想定と、対処の取り決め」
です。

そして、この理は、合弁事業の法的リスクの予防、すなわち合弁契約作成の際にも当てはまります。

すなわち、合弁契約においては、
事業立ち上げまでの役割分担設計が想定と違った場合における追加資源動員の責任分担、
事業の赤字が続いた場合の追加投融資の責任分担や、
出資企業が脱退したくなった場合の処置、
企業運営において意見の対立が生じた場合の打開方法等、
不愉快な事態をより多く想定し、その際の解決のルールをきちんと取り決めておくことが重要となります。

しかしながら、破綻したときや仲が悪くなったときのことを細かく取り決めようとすると、伝統的日本企業の悪しき思考習性として
「これから成功を夢見て仲良く一緒にやっていこうというときに、水を差すような無粋なことをするな」
等と非難されて、法務セクションや顧問弁護士のアドバイスは無視され、合弁契約は極めて曖昧で無内容なものになってしまいがちです。

その結果、現実に合弁事業の破綻やパートナー間の深刻な意見対立等が生じた場合、お互い曖昧な内容の契約書を手に取って、長期間の不毛な裁判を争うことになることが多くなるのです。

他者と良好な関係を構築するためにもっとも必要な前提は?

相手を信頼すること?

違います。

他者と良好な関係を構築するためにもっとも必要な前提は、
「トコトン相手を信用しないこと」
です。

ケンカをするなら、早い方がいいです。

最初に波風を立てておかないと、後から津波が襲いかかります。

共犯形態での犯罪遂行であれ、合弁事業によるビジネス展開であれ、相手のキャラクターや信頼度が成功の決め手になります。

共犯形態での犯罪サスペンスを描いた映画やドラマで、犯人が失敗するパターンとしては、昨日今日知りあったばかりで、人間性をよく理解していない人間とチームを組んでしまい、パートナーがドジを踏んだり、裏切ったりして、捕まる、というのがお決まりのパターンです。

他方で、家族で犯罪を行う場合や、兄弟で犯罪を行う場合、ルパン三世のチームのように古くからの知り合いで共犯を形成する場合は、わりと成功確率が高くなります。

合弁事業も同様であり、古くから商流の接点があり、お付き合いがあるようなところと合弁をする場合は成功確率が高くなります。

とはいえ、古くからお付き合いがあり、信頼できる相手であっても、未経験の事業をリスクとダメージを背負い込みながら共同で行う、といった負荷のかかる状況においては、別の人間性が露見して、いがみ合うことになるかもしれません。

ましてや、知り合って日が浅く、欲得や打算だけで、共同事業を描いたような相手と合弁事業を行う場合、相当警戒と保守的思想で、リスクに関するストレステストをしっかり行い、判明したリスクに対する予防措置を行っておかないと、ちょっとした想定外の事態で、いとも簡単に関係は瓦解します。

そして、関係が瓦解する際には、必ず、壮大な時間とコストとエネルギーを費消する、仁義なき法的紛争が待ち構えております。

「トコトン相手を信用しない」
という思考前提で、
うまくいくまでの資源動員の押し付けあい、
必要な準備や段取りのサボタージュ、
うまく行かなかった場合の責任のなすりつけあいや、
うまく行った場合の成果配分をめぐる仲間割れ
等、ありとあらゆる不愉快な想定を、なるべく早期に、なるべく具体的に行い、これを
「ミエル化、カタチ化、具体化、文書化」
した上で、契約書にどんどん盛り込みあるいは上書きしていく。

これが、合弁事業のリスクを予防するために行う
「合弁契約」
という企業法務的営みの本質です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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