00670_法務課題の整理・体系化の考え方

企業経営とは、
バーチャルで空疎なフィクションとしての人格たる法人組織に統治秩序を構築して運営実体として実質化し、
ヒト・モノ・カネ・チエといった経営資源を効率的に調達・運用・廃棄し、企業内に創出した付加価値を、営業活動によって実現し( 営業成果をカネに変質させる付加価値実現プロセスにおいて債権が介在する場合にこれを管理・実現していき)、営業成果(あるいは営業損失)を正しく計数的に記録しスポンサーや利害関係者にフィードバックする営み
と定義される

他方で、
各活動において短期的・近視眼的・自己中心的に効率化を徹底した場合の負の側面(ダークサイド)があり、これを全体的・長期的・公益的観点から法律が規制し、
「経営陣ら」
が短期的・近視眼的・自己中心的に徹底を検討・実施する効率化に対する阻害要因・障害環境として立ちはだかる。

企業法務とは、
企業経営のすべての局面において生じ得る法的リスクに対する安全保障活動・有事(存立危機事態)対応活動 (法務リスク・法務課題の早期発見・特定と、「大事は小事に、小事は無事に」するための制御の営み)
を指す。

しかし、企業活動は、あまりにも広汎であり、関係する法令もほぼ無限に存在する。

やみくもに知識を吸収し、無秩序に積み上げても、混乱するだけ。

却って、安全保障活動・有事対応活動(法務リスク・法務課題の早期発見・特定と、「大事は小事に、小事は無事に」するための制御の営み)は、混乱するだけで不可能となる。

ゆえに、
前もって、整理・体系化をしておき、
どのプロセスにどういうリスクが発生するか、ホットスポットを明確に認識し、
イシュー・スポッティング・ツール(論点マップ)
しておくことが、法務リスク・法務課題の早期発見・特定と、制御活動の混乱防止に直結する。

他方で、
法分野は、所管官庁のナワバリ毎にドグマティックに体系化されており、
「法を重複横断的に展開するダイナミックな企業活動」
がハレーションを引き起こす法務リスクや法務課題は、各法典の区別と無関係に発生する。

また、法の条文や法の解説書は、法という
「システム」
の構造や構築体系や設計理念が記述してあるが、システムオペレーションの実際や、システムオペレーションの過程で生じる
「バグ」
の現実的な対処方法は、明確かつ具体的には記述されていない。

例えば、
瑕疵担保責任を追及すべき場面や、債務不履行責任を追及されたりした状況や、株主代表訴訟の提訴要求通知を受けっ取った場合や、労働組合からの組合加入通知書や団体交渉要求通知に対する対応を決定協議の場において、条文や著名教授の基本書(内田貴著「民法」や神田秀樹著「会社法」や菅野和夫著「労働法」)を穴のあくほど見つめても、
「欲しい答え」
はおそらく見つからない(ヒントはみつかるかもしれないし、あるいは、手に負えないことが判明するかもしれない)。

この点、中堅中小企業の一般的企業法務部においては、
「お守り」
の如く著名法律書を書棚に並べておくだけ(しかも、改訂版更新もせず、誰も読まず、ホコリを被っているだけ)といった課題対処のための環境整備しかしていない状況が見受けられるが、これでは、不備・不十分この上ないことは明白である。

そこで、法務課題の整理・体系化をし、イシュー・スポッティング・ツールを作成する上では、以下のような、企業活動に対応した法務課題整理の考え方が有効である。

具体的には、
・「企業組織を設立・運営し」=企業組織運営な内部統制に関する規制・法務課題(コーポレイトガバナンス、コンプライアンス)

・「ヒト・モノ・カネ・チエといった経営資源を効率的に調達・運用・廃棄する」
=ヒトという経営資源の効率的な調達・運用・廃棄→労働関連法規による規制・法務課題
=モノという経営資源の効率的な調達・運用・廃棄→リコール規制、食品衛生法、表示に関する不正競争防止法・環境法等の規制・法務課題
=カネという経営資源の効率的な調達・運用・保全→金融機関との取引、債権・債務の管理・回収、余剰資金運用に関する規制・法務課題
=チエという経営資源の効率的な調達・運用・処分→知的財産権法

・「企業内に創出した付加価値を、営業活動によって実現」
=BtoB:独占禁止法
=BtoC:消費者保護に関する各規制

・営業成果がカネに変質する付加価値実現プロセスにおいて債権が介在する場合の管理・実現活動=債権管理・回収に関する規制・法務課題

・「営業成果(あるいは営業損失)を正しく計数的に記録しスポンサーや利害関係者にフィードバックする営み」=会計・税務に関する規制

以上の整理されたイシュー・スポッティング・ツールを活用しながら、
「 法というシステムの構造や構築体系や設計理念」
を静的に眺めるのではなく、
システムオペレーションの実際や、システムオペレーションの過程で生じる
「バグ」
の現実的な対処方法
を実践マニュアル・現場技術として集積し、活用整備していくことが必要となる。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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