00734_労務マネジメントにおける企業法務の課題3:採用した人間を如何にうまく使いこなすか(ヒトという資源活用における企業と労働者との間のイメージ・ギャップ)

当たり前の話ですが、ヒトという経営資源を運用するには、
「どのようにして事業を展開すべきか」
という課題を達成するための合理的手段を、科学的な方法で組み立て、これを現実的な行動計画に落とし込み、現場の人間が判別可能な戦術を与えていくことが必要です。

ここで、いきなり歴史のお話をさせていただきます。

第二次世界大戦末期、旧日本軍は、
魚雷に兵士を搭乗させてそのまま敵艦に突っ込ませて爆破させる攻撃方法(人間魚雷)
や、
航空機をそのまま敵艦に衝突させて爆破させる攻撃方法(特攻)
を実施させたり、国民には、
「気合があれば、竹槍でB29を落とせる」
等と激を飛ばし、竹槍を扱う訓練をさせたり、と愚にもつかないことを行っていたそうです。

しかし、これは笑い事ではありません。

「ヒトを使う」
という点において、旧日本軍と同じようなことをやっている企業が、現代においても少なからず存在します。

すなわち、日本の多くの中小企業や、業績が低迷している上場企業においては、終戦末期の日本軍のように、
科学的方法や合理的・現実的計画に基づかず、
気合や根性や精神論で、従業員にできもしないノルマを与える
ようなところが見受けられます。

1 気合による営業が効果的だった時代

とはいえ、日本の戦後産業社会において、
「気合があれば、竹槍でB29を落とせる」
のと同じように、
激を飛ばし、気合や根性や精神論で従業員に営業活動を行わせることで
「何とかなった」
という時代も、あるにはありました。

30年ほど前までは米ソが冷戦真っ最中で、日本は、
「フツーのものをフツーの値段でフツーに作れる」
という稀有な所業国家として、
「世界の工場」
としての地位を築き上げました。

当時、経済はインフレーション傾向にあり、作っても作ってもモノが不足し、作ればすべてモノが売れる時代でした。

現在のように、マーケティングだの営業戦略だの細かいことをグダグダ考えなくても、気合を入れれば、なんとか需要家がみつかり、あとは押しの一手で在庫を持ってもらうことができる、そんな時代だったのです。

そういう時代においては、能書をたれるよりも、行動こそが重要で、まさしく
「営業は気合」
だったのです。

しかし、冷戦が終了し、世界市場が単一化し、供給が過剰になりはじめました。

東欧諸国や中国が競争に参入し、圧倒的な価格競争力で
「世界の工場」
という地位を日本から奪取しにかかります。

加えて、日本国内においては社会が成熟し、デフレ・低成長時代になり、モノ余りが顕著になっていきました。

2 もはや、気合だけでは売れない時代

このようにして、
「フツーのものをフツーに作れる」
というのは希有でもなんでもなく、
「ビミョーなものを、イジョーな安価で作れる中国その他の発展途上国」
に簡単に負けることを意味するような時代になったのです。

この時代の到来とともに、日本の産業社会は、
「フツーのものを大量に作れば、フツーに在庫が積み上がり、フツーに会社が生き残れない時代」
を迎えるに至ったのです。

また、消費者保護規制が強化されるようになり、気合で売ろうとすると、逆に特定商取引法違反で逮捕される。

そんな時代になったのです。

その意味で、
「気合、根性、精神論で営業を展開する企業は、すでに20ないし30年ほど時代遅れの経営を行っているか、特定商取引法に無視ないし経営した経営を指向しているか、のいずれかまたは双方である」
と、いえます。

3 ビジネスは気合からサイエンスに

低成長でデフレーションが顕著な現代においては、営業は、データと科学で緻密に戦略をたて、
「細かいことにこだわる戦術」
によって行うことが求められます。

一例を申しあげますと、

「売り上げ=潜在客数×来店率×成約率×客単価(+潜在客数×リピート率×成約率×リピート単価)」

と因数分解されます。

売り上げを伸ばすには、潜在客数を増やすか、来店率を上げるか、成約率を上げるか、客単価を上げるか、のいずれかの方法によるしかありません。

すなわち、売り上げが低迷している場合、
1)単価が減少しているのか、
2)成約率が悪いのか、
3)来店率が悪いのか、
4)リピート率が下がっているのか、
5)潜在客数が減少しているのか、
6)そもそも市場自体が構造的に縮小傾向にあるのか、
を分析した上で有効な手を打つべきなのです。

科学的なアプローチを行って合理的な手順段取りで進めていかない限り、いたずらに
「気合」
「根性」
と叫んだところで、営業はまともに機能しません。

4 人を動かすためには、指示は具体的に行うべし

かつて山本五十六は、
「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」
と言ったそうです。

海軍のような指揮命令系統が整備されていて、
最終目標が
「純軍事上、敵に勝つ」
という単純明確な組織ですら、このような状況です。

「人にモノを買わせる」
という複雑で難しいミッションを有する企業においては、なおさら、現場への指示は、合理的で、細かく、具体的で、再現性がないと組織は動きません。

ハウステンボスを建て直した社長は、建て直しを行う際、
「『10%売り上げを上げろ』『利益を5%上げてこい』等という指示を出しても、現場には理解できない。現場への指示は明快で具体的であるべきだ。そこで『移動であれ、会議であれ、作業するのであれ、話をまとめるのであれ、すべて10%スピードアップをしてくれ』という指示を出したら、組織運営が効率的になった」
と述懐していました。

このように、ヒトという経営資源を効率的に活用する上では、精神論、根性論ではなく、
「現場に対して確実に伝わる、現実的で合理的な指示」
を行うことが重要なのです。

以上のとおり、ヒトという経営資源を活用・動員する上では、現代産業社会は、気合や精神論からサイエンスや
「ナッジ」
等の理論を使った行動経済学の時代に突入しております。

他方で、トップ・マネジメントやミドル・マネジメントにおいては、いまだに、大日本帝国陸軍の尉官や曹長レベルの干からびた知能レベルで、非科学的で非合理的で段取りも仕切りもむちゃくちゃでデタラメな資源動員から進歩していません。

このような、ヒトという資源運用面での、使う側と使われる側との重篤なイメージギャップもあり、これがトリガーとなって、様々な労務トラブルが生じることとなります。

初出:『筆鋒鋭利』No.058、「ポリスマガジン」誌、2012年6月号(2012年6月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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