00735_労務マネジメントにおける企業法務の課題4:解雇に関する規制とトラブル(ヒトという資源廃棄における企業と労働者との間のイメージ・ギャップ)

1 採用は自由だが、解雇は不自由

労働法の世界では、解雇権濫用の法理といわれるルールがあるほか、解雇予告制度や即時解雇の際の事前認定制度等、労働者保護の建前の下、どんなに労働者に非違性があっても、解雇が容易に実施できないようなさまざまな仕組が存在します。

映画やドラマで町工場の経営者が、娘と交際した勤労青年に対して
「ウチの娘に手ぇ出しやがって。お前なんか今すぐクビだ、ここから出てけ!」
なんていう科白を言う場面がありますが、こんなことは労働法上到底許されない蛮行です。

そもそも、
解雇権濫用法理(使用者の解雇権の行使は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することが出来ない場合には、解雇権の濫用として無効になる)
からすれば、代表取締役の娘と従業員が交際した事実を解雇理由とすることは濫用の典型事例であり、解雇は明らかに無効です。

仮に解雇理由があっても、労働基準監督署から解雇予告除外のための事前認定を取らない限り、解雇は一カ月先にするか、1カ月分の給与(予告手当)を支払って即時解雇することしかできません。

したがって、上記のような解雇は、理由もなければ手続上も違法なものであり、法的効力は一切ありません。

婚姻関係が
「婚姻は自由だが、離婚は不自由」
といわれるのと同様、従業員雇用も
「採用は自由だが、解雇は不自由」
ともいうべき原則が働きますので、解雇は「勢い」でするのではなく、法的環境を冷静に認識した上で、慎重かつ合理的に行うべき必要があります。

2 裁判所は、ダメ社員の味方

経営感覚と裁判例の大きなギャップを示す事件として、高知放送事件というものが挙げられます。

同事件(最判昭和52年1月31日)では、
「2週間の間に2度、宿直勤務の際に寝過ごし、定時ラジオニュースの放送事故を起こし、放送が10分間ないし5分間中断されることとなり、2度目の放送事故を直ちに上司に報告せず、後に事故報告を提出した際に、事実と異なる報告をしたアナウンサー」
に対する普通解雇について、
「解雇をもってのぞむことはいささか過酷に過ぎ、合理性を欠くうらみなしとせず、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできない」
として解雇を無効としています。

「無断遅刻・無断欠勤などした従業員は解雇が当然」
と考えておられる経営者も多いかと存じますが、最高裁にいわせれば、
「無断遅刻無断欠勤くらいで、解雇だの、懲戒だの、とかガタガタ言うな。その程度で解雇なんぞするのは、不合理で、反社会的だ」
ということになってしまうようです。

3 恋愛関係も雇用関係も、キレイに関係を清算するには、フるのではなく、フられるようにもっていく

では、スマートにクビを切るにはどのようにするか、というと、従業員側から退職届を出してもらうことに尽きます。

さまざまな規制が及ぶ
「解雇」
とは、あくまで
「嫌がる従業員を無視して、会社の一方的意思表示により雇用関係を消滅させること」
を意味します。

すなわち、会社の一方的都合でラディカルな行為が行われるから、さまざまな解雇の法規制が働くのです。

他方、従業員が自主的に雇用関係を消滅させることは全く自由であり、そのような形での雇用関係の解消に法は介入しません。

男女の交際関係を上手に解消する手段として、
「こちらからフるのではなく、相手に愛想を尽かせて相手からフらせるようにもっていけ」
なんて方法が推奨されることがありますが、雇用関係の解消もこれと同様に進めれば、カドをたてず所定の目的を達成できる、ということになります。

初出:『筆鋒鋭利』No.059-1、「ポリスマガジン」誌、2012年7月号(2012年7月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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