企業はその活動のための資金を様々な調達先から手に入れます。
企業の資金調達方法をかなり大雑把に分けると、
「調達した後、返さなくてはいけないお金」と
「一度調達してしまったら、スポンサーに返さなくてもいいお金」
の2種類に分けられます。
こういう言い方をすると、
この世知辛い世の中で「返さなくてもいいお金」なんていう代物なんてあるわけないだろ、
とツッコミが返ってきそうです。
実はそういう変わったお金があるのです。
皆さんのよく知っている
「株式」による資金調達
というのが、
「一度調達してしまったら、スポンサーに返さなくてもいいお金」の調達
を意味します。
時折、経済の仕組みをよくご存知ない専業主婦の方が、
「上場確実と言われて、未公開株を買ったら、上場する気配がまったくない。あのカネを返して」
などとおっしゃる光景を目にすることがあります。
無論、専業主婦の方にその筋の未公開株式を売りつける側の神経もどうかとしていますが、
「株として投資をしたカネを返せ」
という方もかなりおかしいです。
先ほども申し上げたとおり、企業に対する貸付や社債であれば、
「貸したカネを返せ」
ということは問題ありませんが、株式というのは
「一度投資したら、会社は株主に返さなくていい」
という前提でスポンサー付与される権利ですから「株式として投資したカネを返せ」という言い方自体、
「自分は会社制度を知らないバカである」
といっているようなもので、発言としては相当イタいです。
では、どうして、株式なんてものがあるのか、
「一度調達してしまったら、スポンサーに返さなくてもいいお金」
なんてそんなアホな話があるか、一体全体どういうことやねん、という疑問が沸き起こると思いますので、株式という仕組みについて詳しくお話します。
企業の資金調達方法として
「一度調達してしまったら、スポンサーに返さなくてもいいお金」
というものがあり、これが、世の中でよく耳にする
「株式」という仕組み
です。
株式というのは、株式会社という法人のオーナーシップのことをいい、株券とは、このオーナーシップを証明する紙切れのことをいいます。
では、株式会社とは、そもそもどういうものなのでしょうか?
ここで、株式会社の仕組みを非常に簡潔に説明します。
1 究極の無責任法人・株式会社
株式会社は「法人」の代表選手
ですが、法務局備え置きの登記簿上でしか確認できない幽霊のような存在に過ぎず、お情けで法律上の人格を特別に認めてあげているものです(そもそも「法人」とは、フツーの人間と違い、法律上のフィクションによって人として扱うバーチャル人間のことをいいます)。
他方、ご承知のとおり、現代経済社会においては、株式会社は普通の人間様をはるかに凌駕する体格(資産規模)も腕力(収益規模)を有する巨大な存在になってしまっています。
となると、
「こういう巨大な存在のオーナーは、何か問題が起こったら法人に連帯して相当シビアな責任を負うべき」
とも考えられます。
ところが、
「オーナーが多数いても、その中で責任を負担する者が誰もいない」
というのが株式会社というシステムの本質なのです。
企業不祥事等が発覚すると、マスコミ等はこぞって
「企業はきっちり責任を自覚せよ」
「経営者は責任を免れない」
「株主責任を果たすべき」
などと報道します。
しかしながら、株式会社には、法理論上、責任者などまったくおりません。
といいますか、株式会社制度自体が、そもそも、
「誰も責任を取ることなく、好き勝手やりたい放題して、金もうけができ、もうかったら分け前がもらえるオイシイ仕組」
として誕生したものなのです。
すなわち、株式会社制度の本質上、
「会社がヤバいことになったら、オーナーは、一目散に逃げ出せる」
ように設計されているのです。
ここで、株式会社制度に関する学術的に説明を探してみます。
すると、こんな文章に出くわします。
「株式会社とは、社会に散在する大衆資本を結集し、大規模経営をなすことを目的とするものである。かかる目的を達成するためには、多数の者が容易に出資し参加できる体制が必要である。そこで会社法は、株式制度(104条以下)を採用し、出資口を小さくできるようにした。また、出資者の責任を間接有限責任(104条)とし、社員は、債権者と直接対峙せず、また出資の限度でしか責任を負わないようにした」
なんでしょうかねえ、これは。
まるで外国語ですね。
一般人でもわかるように“翻訳”して解説します。
日本語のセンスに相当難のある方が上記の文章で言いたかったことは、
「デカい商売やるのには、少数の慎重な金持ちをナンパして口説くより、山っ気のある貧乏人の小銭をたくさんかき集めた方が元手が集めやすい。とはいえ、小口の出資しかしない貧乏人に、会社がつぶれた場合の負債まで負わせると、誰もカネを出さない。だから、『会社がぶっつぶれても、出資した連中は出資分をスるだけで、一切責任を負わない』という仕組みにしてやるようにした。これが株式会社だ」
ということです。
「株主は有限責任を負う」
なんてご大層に書いてありますが、
法律でいう「有限責任」とは
社会的には「無責任」という意味と同義
です。
ちなみに、
「有限会社」や「有限責任組合」
とは、われわれの常識でわかる言い方をすれば
「無責任会社」「無責任組合」という意味
です。
「ホニャララ有限監査法人」とは、
「監査法人がどんなにあり得ない不祥事を起こしても、出資した社員の一部は合法的に責任逃れできる法人」
の意味であると理解されます。
要するに、株式会社とは、
「存在は中途半端だわ、体格もデカく、腕力も馬鹿みたいに強いわ、その上、大暴れして迷惑かけても誰一人責任取らないわ」、
と無茶苦茶な存在なのです。
そして、この株式会社が、出資を受ける際に、出資と引き換えに出資者に対して発行するのが、
「株式」
と呼ばれる権利です。
株式は、要するに、
「株式会社のオーナーシップ(支配権、所有権)」
です。
とはいえ、このオーナーシップは、自分専用のオーナーシップではなく、たくさんの方と共用することになります。
言ってみれば、
「自宅にある自分しかつかわないトイレ」
ではなく、
「トイレなしのアパートにある共用便所」
です。
使い方にルールがあるし、好きなときに好きなように使えるわけではないのです。
株式会社の成り立ちに関するわかりやすい言い方として
「山っ気のある貧乏人の小銭をたくさんかき集めた方が元手が集めやすい」
と述べましたが、株式は、
「山っ気のある貧乏人の小銭をたくさんかき集め」るために使われる道具
です。
会社の経営に参加したいが、
「小銭」しかもたない「貧乏人」
は、
「『会社がぶっつぶれても、出資した連中は出資分をスるだけで、一切責任を負わない』という仕組み」
を前提として出資に参加します。
このような前提から、株式は、会社の細分化された割合的単位(自宅の専用トイレではなく、アパートの共同便所の利用権)となり、かつ、
「会社がおかしくなっても、出資した連中は出資分をスるだけで、一切責任を負わない」(自分専用のトイレではないので、フンづまって使えなくなっても掃除や修理しなくて放っておいていい)
という権利となります。
以上の状況について、
「日本語に難のある方々」
がよく使う言い方を用いて説明しますと、株式とは、
「株式の引き受け価額を限度として会社に対する出資義務を負うという有限責任であることを前提とした株式会社の支配権を、細分化された均一の割合的単位の形をとった権利」
ということになります。
株式会社は、
「小銭しか出さない(出せない)、無責任な、ゴミのような零細オーナー」
の集積で成り立っています。
この連中が、好き勝手に出資金を引き出したり、払い戻したりすることを許していますと、
「出資した連中は出資分をスるだけ」
という前提すら崩れてしまい、それこそ
「何でもアリ」のスーパーミラクルな無責任組織
ができあがってしまいます。
そこで、この種の小銭しか出資しないオーナーには、
「責任を負わず、儲かったら分前がもらえる」
というメリットを与える反面、
「出資したカネは会社が解散するような状況でもない限り、原則、一切返金しない」
という建前を強要することにしたのです。
このような経緯から、株式として一旦出資したカネは、会社がつぶれるとき以外は、返ってきません。
といいますか、会社がつぶれるときは、たいてい債務超過になっているので、カネは一切かえってきません。
他方、会社としては、株式として集めたお金は、借金とは違い、返済をしなくていいお金として、自由に使えることになるのです。
では、昨日今日できたばかりの会社が、ネットやテレビCMや、あるいは証券会社を使って
「株主募集!」
と銘打ってカネ集めができるか、というとそういうわけには行きません。
こんなことをやると、金融商品取引法等に違反抵触してしまいます。
株式会社は、
「山っ気のある貧乏人の小銭をたくさんかき集め」るために作られた法技術である、
と申し上げましたが、実際このような
「カネのかき集め」
をできるのは、証券取引所から上場承認を得て、金融庁に有価証券届出書も提出するなどして、
「この会社はまともな事業をやっている」
ということを公的機関に確認されてから、ということになります。
多くの企業が株式公開を目指すのは、
「貧乏人から返済不要の小口のカネを集めて商売の元手にして、銀行に頭を下げずに自由に経営をしよう」
という目論見があってのことなのです。
とはいえ、最近では、株式公開にまつわる負担があまりに過酷で、
「四半期決算だの、内部統制だの、こんなにアホみたいな縛りが多いと、マトモに経営などやってられない。これだったら、銀行に頭下げておいたほうがマシ」
ということになり、苦労して株式公開した会社が、非公開会社に逆戻りする、という退嬰現象(MBOと呼ばれたりします)が散見されるようになっているのです。
初出:『筆鋒鋭利』No.070-2、「ポリスマガジン」誌、2013年6月号(2013年6月20日発売)
初出:『筆鋒鋭利』No.071、「ポリスマガジン」誌、2013年7月号(2013年7月20日発売)
初出:『筆鋒鋭利』No.072、「ポリスマガジン」誌、2013年8月号(2013年8月20日発売)
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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