00750_カネのマネジメント(ファイナンシャル・マネジメント)における企業法務の課題4:無責任な節税商品に踊らされて企業が危機に陥るリスク

「企業がカネの問題でつまづいたケース」
としては、別にバクチで儲けてやろうと色気を出して失敗した、というわけではないものの、
「うまく節税しようとして、節税商品あるいは節税スキームに手を出して失敗した」
という例もよく聞かれます。

その昔、興行用の映画フィルムを使った節税商品等、民事組合のパススルーシステム(組合の損金を直接自己の損金として計上できる)を利用して、
「損金を買う」仕組の商品
が流行ったことがあります。

映画フィルム以外では、飛行機や船を使ったリース事業を行う組合を作り、やはりパススルー制と組み合わせて損金計上するような商品(レバリレッジド・リースと呼ばれます)もありました。

どれも
「机上の」税務理論
としてはよく考えられていて、一見すると、効果的な節税ができそうです。

しかし、こういう
「実体の希薄な商品を使った、税務行政にケンカを売るような強引な損金処理」
を税務当局が笑って受け入れてくれるほど世間は甘くありません。

案の定、どれも税務当局と大喧嘩に発展しました。

結論をいいますと、飛行機や船を用いたレバレッジド・リースは事業実体ありということで損金計上が認められ、最高裁もこれを容認しました。

映画フィルム債の方は、フィルムが事業のために用いられているような実体がないということで、最高裁は税務署の更正処分と過少申告加算税賦課処分を認める判断をしています。

こういう裁判所の判断だけを短絡的にみると、
「飛行機と船はOKで、節税できたからいいじゃいないか」
なんて簡単に考えてしまいそうです。

しかしながら、税務署とのトラブルに巻き込まれた(最高裁までもつれこんだわけですから、事件に投入された時間やエネルギーや弁護士費用等はハンパなものではないでしょう)、という点では、飛行機や船のリース事業に参加した場合であっても相当シビアなリスクにさらされた、とみるべきです。

飛行機や船を用いたレバレッジド・リースや映画フィルム債といったスキームについては、裁判所の判断として、
「飛行機と船はOKで、映画フィルム債は、事業のために用いられているような実体がないということで重加算税賦課処分を認めた」
ということになりました。

敗訴した映画フィルム債の場合は勿論そうですが、
「勝訴して裁判所が節税を認めてくれた、飛行機や船を使った節税スキーム」
についても、
「『税務署とのトラブルに巻き込まれた』という点で企業にとって大きな損失になった」
ということです。

この種の
「節税商品」を売る側
は、
「節税プランは完璧です」
ということをセールストークとして声高に謳います。

ですが、売る側としては、売った後に顧客がどんな税務トラブルを抱えたとしても、
「損金計上できると判断するか、損金計上できると判断するとして、実際損金計上するかどうか等は、すべて自己責任だから、関知しない」
という態度を取るものです(もちろん、同情はしてくれたり、紛争対策のための税理士や弁護士を紹介してくれることはあっても、決して手数料を返したりはしてくれません)。

「いい話にはウラがある」
という警句は、実に的を得たものであり、たとえ売り込む側が、仕立てのいいスーツを着て、高価なネクタイをぶら下げ、学歴が高く、名の通った金融機関に勤めていても、金融に関する案件で、売る側のセールストークを鵜呑みにするととんでもないトラブルに巻き込まれる可能性があるのです。

先ほど述べた
「節税商品スキーム」というもの
についていえば、どんなに外来語や専門用語が散りばめられ、横文字で大層な商品名が書いてあったとしても、会社が購入するのは、シンプルにいえば
「税務当局とのケンカの種」
に過ぎません。

フツーに商売するのですら困難な時代に、税務当局と大喧嘩して、企業がまともに生き残れるほど甘くはありません。

さらにいえば、この種の節税商品は、聞けば卒倒するような額の管理コストがべったり乗っかっており、この商品で誰がどのくらい儲かるかを理性的に算出すれば、げんなりするような仕組が内包されています(もちろん、そのことはわかりやすくは書いてありませんし、そんな野暮な質問をするような利口な方はそもそも手を出しませんので、結果、節税商品とか節税スキームに乗っかる人は、「金鉱山のふもとでスコップを売る方々」がどのくらい儲かっているのかはあまり認識されません)。

いずれにせよ、この種の節税商品や節税スキームについて、一体どのくらいメリットがあるのか、冷静かつ慎重に考えた上で採否を決定しないと、大きなダメージとリスクを抱えてしまうかもしれません。

初出:『筆鋒鋭利』No.074-2、「ポリスマガジン」誌、2013年10月号(2013年10月20日発売)
初出:『筆鋒鋭利』No.075、「ポリスマガジン」誌、2013年11月号(2013年11月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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