かつての産業経済は、一定の規格のモノを安価かつ大量に生産し、これを大量に消費することにより成り立っていました。
しかし、
農業における「豊作貧乏」という事態
のように、
社会にはモノがあふれ、逆に過剰となったモノは地球環境にとって有害である、
とすら言われ、企業の責任として
「無駄なゴミを作り出すな。廃棄物の回収に責任をもて」
ということまで要求されるようになってきました。
現代の企業活動においては、
「モノ」
を大量に作り出すことから、高度な研究開発の成果を蓄積・活用し、ブランド力を高めることが、競争力の維持・向上や企業の生き残りとして必須の課題と認識されるようになりました。
このように、現代では、多くの企業において、重視すべき経営資源が
「モノやサービス」から「アイデアやブランド」にシフト
していくようになっておりますし、また、世界的にも、競争力を高めるためにはアイデアやブランドを保護し、強力なインセンティブの下にこれらの創造を後押しすることが重視され、知的財産権の強化が叫ばれるようになってきています。
日本においても、
「知的財産立国」
を目指して知的財産戦略会議を行い、知的財産戦略大綱の決定を経て、知的財産基本法が施行され、一貫して知的財産権保護強化の政策が取られています。
他方、もともと産業文明が模倣と改良により発展してきたものであり、知的財産権を必要以上に強化することは、産業社会の発展を妨げるという考えもあります。
知的財産保護の法制度も
「一定の要件を満たす高度でユニークな知的成果で、社会にとって有用なものに限定して法的保護を与える」
ということを大前提としています。
ところが、このような趣旨を誤解し、
「高度な知的成果とは言い難い、ありふれた思いつき」
を
「知的財産」
と称し、知的財産権保護の名の下に正常なビジネス活動を行う企業を威嚇するなどして、社会に混乱を与えるケースも存在します。
また、知的財産権は物権のように強力な権利を第三者に及ぼすことができる反面、権利範囲は物権と比べて曖昧模糊としており、知的財産権が及ぶ範囲と及ばない範囲や、類似の知的財産権相互間の権利範囲の境界は極めて漠然としています。このため、
「土地の境界争い」
が如き知的財産権紛争も増加の一途をたどっています。
一括りに知的財産権といっても、実に多種多様の権利を含み、また、それぞれの権利毎に、権利が発生するための要件や登録の要否、権利侵害が生じた場合の救済手続が細かく、かつ複雑、かつ難解に定められております。
また、知的財産とは、
「国がフレームを定め、一定の要件の下に、民間人に『特別の利権』を付与するもの」
である以上、当該利権の仕組みには行政機関が強力に関わってきます。
他方、所管する行政機関が知的財産権の種類毎に異なるほか、権利としての成立の是非を巡る訴訟に至った場合、
「特許庁の登録という判断(行政判断)を裁判所の司法判断として採用するか異議を唱えるか」
という
“司法権”対“行政権”という国家機関相互のケンカ
にまで発展する問題をも孕む、極めて複雑な法律問題に発展します。
このため、法律の専門家である弁護士ですら
「知的財産紛争は一切取り扱わない」
というスタンスを取る者も出るほど、取扱がやっかいなビジネス課題であることは確かです。
このようにビジネス課題としては、極めて理解及び運用が困難な知的財産マネジメントですが、知的財産が今後の企業活動にとってますます重要性を帯びることを考えれば、知的財産の実体を正しく理解し、情報・技術・ブランドに関し正しい戦略を構築し、武装を行っていくことは企業にとって必須となることは間違いありません。
初出:『筆鋒鋭利』No.076、「ポリスマガジン」誌、2013年12月号(2013年12月20日発売)
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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