00807_企業人としての業務スキル1:報連相(1)報告する

仕事を行う上では、
「ホウレンソー」
が大事だ、とよくいわれます。

報告・連絡・相談の頭の一文字をとって、報(ホウ)・連(レン)・相(ソー)というわけです。

1 報告の前提としての正確で客観的な状況認識

報告というと、
「そんなの簡単。バカでもできんじゃん」
とか言われそうですが、プロのビジネスマンとして行う
「報告」
は、フツーの方が考えるほどカンタンではありません。

主観や思い込みや伝聞や、根拠(ソース)のない噂話は、
「報告」
とはいえません。

したがって、適切に
「報告」
するためには、正確で、客観的かつ批判的な観察や調査が前提となります。

ローマの政治家ユリウル・カエサル(英語読みはジュリアス・シーザー)は
「人間なら誰でもすべてが見えるわけではない。多くの人は自分が見たいと欲することしか見ていない」
といったそうですが、これは状況認識の本質をよく言い表しています。

仕事の経験のない人間に、特定の状況を観察ないし認識させ報告をさせてみても、まったく出鱈目なことを書いて寄越します。

物事を客観的に認識するには、観察力や批判的な考察する能力が必要であり、これは経験により獲得されるスキルなのであり、見逃し・漏れ・抜け・チョンボをやらかしてその度に上司に怒られるなどして痛い目に遭わないとなかなか身につかないものです。

そんな痛い目を繰り返し、
「なぜこの点確認しないんだ」
「こういう場合にはどういうシナリオになるんだ」
「どうしてそんなことが言えるんだ?根拠は何だ?」
という上司の小言や罵倒をリアルタイムで想定できるようになり、はじめて正確で客観的な状況認識ができるようになるのです。

2 報告の具体性

また、
「報告」
には具体性が必要です。

すなわち、報告の内容として、いわゆる
「六何の原則(何時、誰が、どこで、誰に対して、何を、どのようにした、という点を明らかにする。5W1Hの原則ともいわれる)」
を過不足なく充足している必要があります。

なお、ビジネスマンの場合、以上の
「六何」
に加えて、量や価格も具体的に特定した上で話を進めないと時間や労力の浪費や機会の喪失に繋がりかねません。

したがいまして、
「六何」

「どれだけ」
すなわち
「How much (How Many)」
を加えた、
七何の原則(5W2H)
までも包摂した報告内容とすべき必要があります。

この点、仕事がデキない人間の報告をみると、
「何時」「誰」「場所」
等の要素が欠けていることが散見されます。

例えば、
「今後、先方担当者からしかるべき対応を取っていただく予定である」
という書きぶりの報告ですが、
「今後」
とは何時のことを指し、
「先方担当者」
とは一体誰のことで、
「しかるべき対応」
とはどのような行為を示すのか、まったく不明です。

こういう
「昔、昔、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました」
という
「日本昔話型報告書」
をやっていると、報告者の知的水準が疑われます。

3 報告のタイミング

食べ物に
「旬」
があるように、報告の価値も報告タイミングとの関係で常に変動します。

客観的で具体的な報告をしようとして時間をかけて報告書を作成するのも結構ですが、報告書を作成している間に、状況が変わってしまい、前提状況が崩れ、報告が無意味になることがあります。

「報告の価値は、報告資料の厚さに反比例し、報告のタイミングに比例する」
というルールがあるそうですが、効率よくビジネスを進めている企業ほど、弁解がましいレポートより、カンタンなメールやメモで(ときには口頭で)要点を簡潔に報告することを好む傾向にあるようです。

4 報告で用いる表現

報告で用いる文章ですが、平易で簡潔な表現ほど好まれます。

ビジネスの現場ではスピードが価値そのものであり、本質をわかりにくくするような修飾語は、報告の価値を劣化させるだけです。

「繁文縟礼(はんぶんじょくれい)」
という言葉がありますが、報告内容が乏しかったり、原因の特定や責任の所在を曖昧にしたいときほど、用いられる表現は難解になり、報告書ボリュームが増えていく傾向にあるようです。

このもっとも最悪な例は、霞が関言葉や霞が関文学と呼ばれるものです。

報告の提出先(名宛人)にあえて真実を伝えず、煙に巻きたい、という積極的な意図があるのであれば格別、まじめに業務として状況を伝えあるいは共有したいのであれば、この種の悪文は避けるべきです。

最後に、報告においても、禁句というものが存在します。

デキない人間の報告には
「検討する」
という言葉が良く見受けられますが、
「検討する」
とは
「対応を取らない」
という意味であり、こういう言葉を多用すると、仕事の能力を疑われることになります。

報告するだけで終了するようなタスクは別として、報告の末尾には、次に、報告書作成者である担当者が何をすべきか、いわゆる
「宿題」
を記載するのが一般です。

この
「宿題」

「検討する」
となっていると、
「私は宿題があることを具体的に認識していません」
「私は宿題をしません」
といっているのと同義であり、やる気がないか、スキルがないか、ぼーとしているか、責任感が欠如しているか、のいずれか又はすべてである、と評価されてしまいかねません。

「宿題」
も、明確に、何時まで、どんな内容を、どのような段取りで、どの精度まで仕上げてフィードバックするか、と書いてあると、報告を受けた方(上司やクライアント)は安心しますので、そのような記載を心がけるべきです。

初出:『筆鋒鋭利』No.039、「ポリスマガジン」誌、2010年11月号(2010年11月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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