00859_日本企業が海外進出に失敗するメカニズム4:「アジア進出の目的」として設定されるべきものを、純経済合理性に基づき考察する

日本のドメスティックな企業が敢行する
「海外進出」事業
について、その目的の妥当性・合理性を評価検証してみます。

ここで、最近のトレンドを踏まえて、
「中国やその他アジア各国に進出する」
というケースを分析してみましょう。

まず、そもそも、なぜ、中国やその他アジア各国に進出するのでしょうか? その経済的意味はどこにあるのでしょうか?

ここで、倫理や道徳や綺麗事を捨象して、シビれるくらい、シビアに、純経済的に、合理的に目的考察をしてみます。

「アジア進出の動機として、生産拠点を日本からアジアにシフトする、ということを考える企業」
においては、アジア進出のメリットは、ずばり、
「低賃金」
です。

すなわち、
「現地の方を安い給料で、コキ使えるから」
というのが進出の合理的理由として推定されます。

だからこそ、
「最近は中国の人件費が高くなったからベトナムがいいぞ」
「いや、ベトナムも高いから、ミャンマーとかカンボジアだぞ」
といった、まるで隣のスーパーの方が大根が安いとか、卵のパックが3円安いから、といった類の比較にまつわる噂話が聞こえてくるのです。

要するに、生産拠点をシフトする形で中国に進出する企業は、別に、
「中国が好き」とか、
「民間レベルの日中友好を進めたい」とか、
「本場の中国料理」が好きとか、
「中国の方が好き」とか、
「4000年の歴史に敬意を感じたから」
といった動機ないし目的ではなく、その真の目的は、
「(日本人とくらべて相対的に)安くて、コキ使える無尽蔵の労働力がある」
と考えて、進出するのです。

だから、中国より人材が安いところがあると、まるで1円でも安い大根や卵を求めて近所のスーパーをハシゴする主婦のように、経済的判断において、
当該「さらに安い人件費」
を求めて、進出先をいきなり変更したりするのです。

かつて、植民地支配の時代に、欧米列強が、
「当時の彼らからみて劣等民族(※あくまで「進出した当時の者」の認識であって、私のそれではありません)であった現地人を、奴隷労働力(植民地時代の欧米列強の一般的認識としてです)として廉価に活用できるから」
という理由でアジアアフリカ諸国や中南米において生産活動を行っていたことがありました。

生産拠点を日本からアジアにシフトすることを目的とする企業の進出動機は、
「倫理や綺麗事を捨象した、純経済な観察における合理的な目的」
として考察すれば、要するに、これと同様あるいは近似するものであり、
「現地の人的資源を経済的に有利な条件において生産資源として活用したい(からアジアに進出する)」
というのがその目的ないし真の動機として捉えられます。

また、別の企業は、進出するアジアの国を、自社の商品を消費してくれる巨大市場とみて、進出するところがあるかもしれません。

この場合、かつて、植民地支配の時代に、主に商品を販売することを企図した欧米列強の企業がアジア各国に進出したケースと同様、欧米列強が遠く離れた僻地にまで足を運んで物を売ろうとしたのは、
「当時の彼らからみて文明レベルの劣る民族(※あくまで「進出した当時の者」の認識であって、私のそれではありません)に対して、『現地では作れない、現地の方の消費欲求を掻き立てる圧倒的な価値と希少性を有する商品・サービス』を提供することによって、母国では考えられないほど容易に、市場争奪や市場支配が可能だったから」
です。

現代の日本で、販売拠点をアジアに設けることを目的とする企業の進出動機も、建前や倫理・道徳を一切捨象して純経済的に突き詰めれば、これと同様、
「母国とくらべて有利な競争環境を求めて効率的に稼ぎたい(からアジアに進出する)」
というのが、その目的ないし真の動機として捉えられます。

無論、アジアに進出する企業は、こんな時代錯誤も甚だしい下劣な言い方で、その動機や目的を語ることはありません。

綺麗事や建前やエレガントな進出目的(相互互恵による国際的な協調、対等な真のパートナシップによる相互発展など)を騙り、ディスインフォメーション(情報偽装)します。

「この種の韜晦を、いけしゃあしゃあとカマし、実際の目的ないし動機は、植民地時代の欧米列強の企業のものと同様のものを強固に持ち、これを、SMART基準に落とし込んで、部下に的確な指示を出し、シビアに当該目的を達成する」
という企業は、まず、間違いなく進出に成功します。

他方で、本音と建前がよくわからない状況で頭脳の中でカオスとなっている(さらに言えば、「国際進出をした国際的な企業の国際的な社長さん」とみられたいというくだらない意地や見栄のため、進出自体が自己目的化しているような)企業については、アジア進出の目的を見失い、確実に失敗します。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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