00896_企業法務ケーススタディ(No.0229):損害賠償

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2008年11月号(10月25日発売号) に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」一の巻(第1回)「損害賠償」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
ハイ・エナジー・コーポレーション(「ハイエナ社」)

損害賠償:
ハイエナ社との事業提携交渉に際し、守秘義務契約を締結しました。
ところが、ハイエナ社の課長が、業界団体主催の勉強会にて、当社の機密をコピーして配ってしまいました。
ハイエナ社は大筋で事実を認め、謝罪してきています。
守秘義務契約書に
「契約に違反した場合にはその全損害を賠償する」
と記載していましたので、当社としては、重要な機密漏えいの全損害として10億円を請求しようとしています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:悪さしたんだから、損害賠償は当然認められるんでしょ?
損害賠償を請求する場合、原則として、請求する側において、
「どういう損害が発生し、この損害が金銭に換算していくらに相当するか」
という命題について、主張し、立証する責任が生じます。
「機密保持義務に違反して、機密を漏洩した」
という抽象的で実体のつかみにくい話の場合、
「当該機密の価値がどのようなもので、この機密の価値を喪失したことにより、どのような損害を被り、これが金銭に換算してどのように評価されるか」
という事実を主張し、立証するのは、至難の業といえます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:損害なければ賠償は不要!
「侵害論と損害論とを分けて議論すべし」
といわれるように、 裁判システム上、たとえ違約した当事者や加害者がどんなにひどいことをしたとしても、被害者が損害の主張立証ができなければ、賠償金を支払う必要はありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:立証が難しい損害はペナルティ額を定めてしまえ
ペナルティを事前に定める方法としては、賠償額の予定のほか、さらに厳しい
「違約罰」
という制度があります。
気をつけなければならないのは、契約文言として規定する上では、
「損害賠償の予定」

「違約罰」
の概念を明瞭に区別し、所要の法的効果が達成できるよう書き分けておく必要があります。
なぜなら2つの概念は、法的効果が異なる上、民法420条に
「違約金の定めは(違約罰ではなく)損害賠償の予定である」
旨の推定規定があるからです。
最後に、極度に高額のペナルティを設定すると、暴利性の抗弁(「公序良俗に違反する高額な賠償額を定めたものとして、民法90条に反し、無効」とする相手方からの抗弁)を誘発しかねませんので、その対策も必要になります。

助言のポイント
1.契約違反や権利侵害の事実が明らかであっても、発生した損害の主張立証ができなければ、賠償金はもらえない。
2.機密保持違反事例など、損害が抽象的な内容で、主張立証の困難が予想される場合、契約書で損害賠償の予定や違約罰を定め、ペナルティ額を確定するといい。
3.損害賠償の予定と違約罰とは似て非なるもの。契約書ではきちんと書き分けること。
4.ペナルティ額を設定する場合、暴利性の抗弁への対策を忘れない。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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