企業の法務担当者が、取引やプロジェクトや事件・事案の関係者たる担当部署(原局・原課・主管部署)相談を申し込まれた場合を想定します。
相談を実施する者が企業の法務担当者である場合(法務相談)もあれば、外部の弁護士(顧問弁護士等)の場合(法律相談)も含みます。
法務カウンセリングを行うに際しては、まず、相談者(企業の原局等)が直面している状況を聴取し、概要レベルで把握します。
ざっくり言えば、
「どんなことを目論んでいて、あるいはどんなことをやらかしてしまい、どんな問題にぶちあたり、何に悩み、何を困っているのか」
さらには、
「(何が問題かすらわからないが)何に不安を感じ、何におびえ、どのような予兆をみてビビっているのか」
といった(割と低劣でドン臭い)類の経緯と直面状況についてです。
この際、状況の概要をメモとして作成して事前送付してもらうような段取りが推奨されます。
また、企業が意図ないし実践するビジネスモデルを端的に記述した資料(場合によっては商品の現物やサービスカタログ)等も持参させることも、直面している状況をより具体的かつ鮮明に理解するために必要です。
この際、相談者には、ジャーゴン(符牒や専門用語)を用いず、
「プレイン・ランゲージ(日常の平易な言語)」
で語らせることが重要です。
生業としてのビジネス(稼業レベル)は、所詮、
「金儲け」
であり、シンプル化すると、
・安く仕入れて高く売る、
・安く作って高く売る、
・奉仕をして手間賃をもらう、
のいずれかに収斂するはずです。
事業としてのビジネス(組織ぐるみで行う企業活動)としては、
・カネを増やす
・支出を減らす
・時間を節約する
・労力を節約する
・ビジネスの活動や成果を数字や文字を使ってミエル化・カタチ化・フォーマル化する
・安全保障活動
のいずれかに整理されます。
ときどき、相談者にビジネスを説明してもらったら、私が聞いても理解できないようなビジネスのメカニズムを話される相談者がいます(嫌味に聞こえるかもしれませんが、状況理解の容易化のため慎ましやかな性格をかなぐり捨てて述べますと、聞いている私本人は「東大卒弁護士」です)。
「東大卒弁護士の国語読解力」
で話を聞けば、宇宙の成り立ちとか量子力学とかのレベルでない限り、たいていのことは理解できます。
ましてや、たかがビジネス、たかが金儲けの話です。
「東大卒弁護士の国語読解力」
をもってしても
「まるきり理解できない」
という事態が生じる蓋然性はほぼ皆無です。
「相談者にビジネスを説明してもらったら、私が聞いても理解できないようなビジネスのメカニズムを話する」
という場合、聞き手の理解力が問題というより、
・相談者が混乱しているか、
・相談者は受け売りしているだけで、実は相談者自身が何をやっているかさっぱり理解できていないか、
・相談者の行っているビジネスや営み自体が構造的に欠陥を孕んでいて、無意味あるいは不効率、無駄で有害で愚劣なものであるため、自分の営みを説明しようとしても、理性的な頭脳と知性では理解できないハチャメチャなものになってしまっている、
・相談者の行っているビジネスや営み自体に詐欺性や欺瞞性があるなど、大きな声では言えない、聞こえが悪い、グレーでダーティーな要素があり、これを、体面・メンツ・沽券を維持しようと、法務担当者や弁護士にまで、カッコつけたり、姑息に糊塗隠蔽しようとしたり、美辞麗句で煙に巻こうとしているため、全体として何を言っているかわからない話になる、
といった事情が原因の大半です。
相談を実施する者が、法務担当者であれ、弁護士であれ、一般に法律を専門的に取り扱う人間は、平均的日本人に比べて、日本語に長け、世事に長けています。
したがって、
「相談を実施する者がまともな読解力を以て注意深く聞いても理解できない、というケースは、聞き手の問題というより、話し手が混乱している、あるいは説明力が壊滅的に低劣」
という高度の蓋然性があるものと考え、話し手を落ち着かせ、頭と話を整理して説明させるべきです。
なお、企業人一般(あるいは日本人一般)は話力や整理力が圧倒的に未熟あるいは幼稚であり、
「企業外部の人間や、業界以外の人間に、簡潔かつ理論的に、自社の活動や自分の置かれた状況を説明する」
というシンプルなタスクが、超弩級に下手くそです。
このことは、上場企業の社長のほとんどが、株主総会の議長として一般株主に説明することを嫌悪し、忌避するメンタリティをみても明らかです。
企業のトップがこの体たらくですから、その下に連なるその他大勢の方々のレベルは推して知るべし、です。
いずれにせよ、
「状況を端的に語らせ、これを法務担当者ないし弁護士として、概要レベルで理解把握する」
という初歩の初歩でも、主に相談者のスキルや不慣れのせいで、相当な時間を要する場合があることに注意すべきです。
なお、企業法務部を設置したり、顧問弁護士を配置すると、この
「相談する側が、どんな商売をやっていて、どういうことを目論んでいて、どんな状況にあるか」
ということを日常的・恒常的に状況共有し、コミュニケーションのコストとスピードと効率性の面で劇的に改善することになります。
すでに内容証明郵便による警告書や通知書や反論書が飛び交い、紛争になっているケースにおいては、クライアントの整理されておらず、まとまりがない話を聞くより、通知書等を見たほうが手っ取り早い場合があります。
主に弁護士としては、セカンドオピニオンを求める依頼者に相談を実施することがありますが、その場合、前任弁護士の文書成果物(各種手続書類や報告書等)をみた方が、早く状況把握にたどり着けます。
相談者に寄り添う、
話を聞いてあげる、
愚痴や悩みを聞いてあげる、
気持ちを理解してあげる、
ということは、相談者の精神的安定にとってはプラスですが、貴重で有限な資源である時間の効率的運用という点では、大きなマイナスになりかねません。
相談者の精神的安定についてはセラピスト他その筋の専門家に委ねるとして、事態解決の専門家たる法務担当者や弁護士としては、簡潔かつ理論的に話を整理していくことに注力するべきであり、結局、その方が、却って相談者にとってのメリットにつながると考えられます。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
✓当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ:
企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所