本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2009年5月号(4月25日発売号) に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七の巻(第7回)「 公正取引委員会による独占禁止法違反審査」をご覧ください。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
公正取引委員会(「公取委」)
公正取引委員会による独占禁止法違反審査:
当社が価格カルテルをしたとのことで独占禁止法違反の疑いがかけられ、公取委が来ることに。
どうやら当社の営業担当者が、同業他社の営業担当者らと3か月に1回程度の割合で会合を行い、四半期ごとの自社製品の値上げ率についての情報を交換していたらしいです。
このままでは、莫大な課徴金をかけられてしまうでしょうし、調査が入ったとマスコミに騒がれたら、当社の信用はガタ落ちになりましょう。
まずは、当社社長が公取委に謝りに行こうと考えています。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:公正取引委員会
独占禁止法は、企業による私的独占、談合やカルテル、不公正な取引方法等を禁止し、公正かつ自由な市場競争の促進を図る法律です。
所管官庁である公取委は、企業によるそれらの各種独禁法違反行為を調査・摘発するための強大な権限を有しています。
一般消費者や他の企業からの申告等により違反を検知した公取委は、関係情報の収集を行い、その結果、違反に向けた本格的調査の必要性があると判断した場合、審査官を指定して事件の
「審査」
を開始します。
その結果、処分が必要と認める場合は、
「排除措置命令」(独禁法7条。独占禁止法違反の行為を排除するために必要な措置が命じられること)
「課徴金納付命令」(同法7条の2。私的独占やカルテルによる不当利得相当額以上の金銭の納付を命じられること)
といった違反に対する強力なペナルティ(行政処分)を課す権限を有します。
さらには、悪質な独禁法違反で行為に犯罪性が認められる場合、犯則調査の上、刑事告発する権限をも有しています。
このように、公取委は、独占禁止法違反問題に関して、警察と検察と裁判所とを掛け合わせたような、とてつもない権限を有するお役所といえるのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:公正取引委員会の審査とは
公取委の審査は、刑事手続における
「捜査」
と同じく、独禁法違反を立証する証拠を収集するため、資料の収集や事情聴取等が行われることになります。
審査官による調査には、任意調査と強制調査があります。
任意調査は、対象企業の同意を得て行われる書類提出や事情聴取ですが、実際はかなり断りにくい雰囲気での強制的な要請がなされます。
いちいち同意を得るような方法では手ぬるい場合には、強制捜査、すなわち、
1.出頭命令(関価格協定の担当者の強制的取調べ)
2.提出命令(帳簿等の提出)
3.立ち入り検査(営業所に赴き、業務状況を調査)
といった警察・検察の捜査に似た強力な捜査権限が行使されることもあります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:公取委の審査への対応
公取委による審査が開始された場合、自社の正当な言い分はきちんと提出しておくべきです。
審査が止まることはありませんが、審査手続を全体として適正かつ謙抑的に行わせることや、審査後の警告・注意・打切りによる早期かつ軽微に終了が期待できます。
公取委に対して有効な反論を行うためには、正確な事実関係の把握と正しい法的理解を前提にして、自社の正当な言い分や見解を、理論的かつ説得的に組み立てる必要があります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:企業のなすべき対応
何よりもまず、主要な争点を特定し、正確な事実関係を把握することが不可欠です。
主要な争点の特定は最優先事項となります。
主要争点が判明したら、正確な事実関係を把握するため、社内の関係者を呼んで徹底した内部調査を行うことになります。
内部調査は、争点となるべき事実に即応した
「5W1H」
の形で質疑応答を重ねることにより進めていくのが効果的です。
調査開始にあたっては事前にトップのお墨付き(Authorization)を得ておく必要が生じます。
そして、公取委の審査官から出頭要請を受けた担当者には
「自分が供述したことと違った内容の供述録取書に対しては、絶対に署名を拒否し、いったんその場から帰る旨をはっきりと述べること」
等、取調べに対する適切な対応策を、事前にブリーフィングしておく必要もあります。
さらに、取調べを受け終わった従業員には、その日のうちに供述録取書の内容を再現させるべきです。
公取委の審査の方向性や事案や争点の全容の解明のためにも、また、どのような証拠が審査官の手元にあるかを把握しておくためにも、供述録取書の速やかな再現は、必須の作業となります。
こうした手続を経て審査が終了すると、公取委は、審査を打ち切ったり(不問に付す場合)、注意・警告等の是正指導で終了するほか、排除措置命令や課徴金納付命令の発令のための事前手続に移行する場合があります。
事前手続とは、排除措置命令及び課徴金納付命令を行うにあたって、独禁法違反行為をしたとされる企業に、事前に与えられる意見申述等の機会をいいます。
一方、すでに発令された排除措置命令や課徴金納付命令について、事後に争う機会として与えられる手続が
「審判手続」
です。
なお、事前手続を経て発令された排除措置命令等を争うことなく受け入れれば、審判手続に進むことなく当該命令は確定し、企業は、この命令に従わなくてはなりません。
助言のポイント
1.公取委の審査がはじまっても、一切の反論が許されないわけではない。自社の正当な言い分は、きちんと主張すること。
2.後の手続における意見申述や証拠提出の機会を待つのではなく、審査の段階から早期に自社の言い分を強くアピールすることが肝要。
3.正当な言い分を主張して防御を行うためには、主要争点の特定が何より先決。攻撃対象を明確にするのは、防御戦にとって最重要課題。
4.主要争点が特定できたら、徹底した内部調査で事実関係を把握し、具体的な防御方法を固めるとよい。争訟事案処理に長けた弁護士を活用して、不当な認定がされることのないよう粘り強く対応すること。
5.審査官の取調べを受ける従業員については、事前に対応等についてのブリーフィングを行うこと。また、取り調べがあった後は、その日のうちに供述録取書の内容を再現させて、争点把握に努めること。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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