本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2009年6月号(5月25日発売号) に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八の巻(第8回)「外国公務員への贈賄」をご覧ください。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
東京地方検察庁(「東京地検」)
外国公務員への贈賄:
当社のフィリピンの現地法人が、病院建設工事受注をめぐり政府高官に贈賄したとの疑いで、東京地検から事情聴取を求められました。
「不正競争防止法で外国公務員への贈賄も犯罪と扱われており、発覚したらほぼ例外なく裁判になるようです」
と慌てふためく執高部長に対し、脇甘社長は、
「医療過疎地域の病院建設は公益的な事業で、儲けはほとんどなくボランティアみたいなもの。
法人格が違えば、関係ないだろうし、付届け先は政府ではなく、税金を使っている民間会社で、問題になどなるはずはない 」
と、いいます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:海外での贈賄行為が処罰されなかった時代
日本国内においては贈収賄は厳しく処罰されますが、海外での贈賄は日本で裁かれることはありません。
無論、当該進出国の贈収賄罪に抵触することはありますが、国によっては、実体法規の定めとは別に、汚職が行われても誰も問題にしないところも数多くありますし、捜査当局あるいは司法当局自体が賄賂で動く国すらあります。
そういうわけで、日本企業が海外において外国政府発注事業を獲得・推進するにあたって、政府高官に対する贈賄というものが多かれ少なかれ行われていたようです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:不正競争防止法による規制
1997年にOECDにより、
「外国公務員贈賄防止条約」
が締結され、海外の贈賄行為は本国でも違法とし、処罰等の措置を導入することが合意されました。
これを受け、日本でも、1998年に
「不正競争防止法」
が改正され(施行は1999年2月)、同法18条において、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して、営業上の不正の利益を得るための贈賄が禁止されました。
違反した場合、贈賄行為者には5年以下の懲役または500万円以下の罰金が(同法21条)、また企業自体についても3億円以下の罰金刑が課されるようになりました(同法22条、両罰規定)。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:外国公務員等贈賄罪の構成要件
贈賄の相手は、外国公務員に限らず、政府関係機関や外国政府が出資した公的企業等も含まれます。
贈賄における要件は、儲かるかどうかは関係なく、また、営利を直接目的とするかどうかも関係ありません。
賄賂の内容は、カネや物品だけでなく、食事やゴルフも含まれます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:現地法人やコンサルタント等を用いた贈賄行為もアウト
法人格が異なる海外現地法人が賄賂の費用をすべて支出している場合は、無関係とも思われますが、不正競争防止法に定める罰則規定には、刑法総則が適用されますので、外国公務員への贈賄行為の成否を検討する場合、同法60条~65条までの共同正犯(共謀共同正犯を含む)、教唆、ほう助等も視野に入れなければなりません。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:外国公務員等贈賄罪を意識したコンプライアンス体制の構築
外国公務員等贈賄罪については非常に厳しいルールが存在し、また、実際、三井物産ODA利益供与事件(2002年に発覚し、立件は見送られたが、当時の社長及び会長が引責辞任)、電気工事大手の九電工の子会社によるフィリピン政府高官への利益供与事件(2007年に社員2人に有罪判決)、大手コンサルタントPCIによるベトナムホーチミン市公務員への贈賄事件(2009年1月に元幹部ない懲役2年の有罪判決)など、厳しい刑事責任、社会的責任を問われます。
経済産業省がまとめた外国公務員贈賄防止指針(注)が公表されており、コンプライアンス体制構築上、非常に参考になります。
助言のポイント
1.途上国の贈賄が許されたのは過去の話。現在では、厳しい処罰の対象になる。
2.見つからないと思ったら大間違い。税務調査が入って、支出経費が調べられると、簡単に露見することになる。最悪、所得隠しの追徴課税、両罰規定による罰金刑、信用失墜・社会的制裁のトリプルパンチが待っている。
3.「現地法人がやったから知らない」「社会的儀礼の範囲だ」「進出国では問題になっていない」という弁解は一切通用しない。
4.金融の利益、保証提供、親族の役員就任といった「巧妙な方法」もすべてアウト。「価格と品質による競争」以外の競争は基本的にNGと考えよう。
5.現地法人や営業現場に暴走させないためにも、経済産業省公表指針を使って、きっちりとしたコンプライアンス体制を作り上げよう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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