00925_企業法務ケーススタディ(No.0245):優越的地位の濫用

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年4月号(3月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」十七の巻(第17回)「優越的地位の濫用」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 総合衣料品ショップ事業 バーバーズ・ニューヨーク巣鴨店

相手方:
バーバーズ・ニューヨーク巣鴨店の納入業者

優越的地位の濫用:
当社は、バーバーズ・ニューヨーク巣鴨店の改装に納入業者を協力させようと考えています。
具体的には、納入業者に大量の不要な商品を引き取らせ、新商品搬入を手伝わせるのです。
断る業者がいるとは考えられませんし、協力しない業者は切ろうとしています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:独占禁止法
独占禁止法(「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」。以下「独禁法」)は、公正で自由な競争を促進することにより、市場経済が円滑に発展することを目指すものです。
チカラとカネにモノをいわせた競争の結果、有力な企業が特定の市場を寡占してしまう事態が生じることは、自由な競争を是とする以上、仕方がないでしょう。
しかし、その結果、価格と品質を競い合う能率競争が停滞するようなことは、経済の発展・国民の実質所得の向上という観点から好ましいとはいえません。
そこで、独禁法は
「どのようにして、公正で自由な能率競争を促進させるか」
という観点から、 私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法を規制し、かつ規制の実効性を確保するため、排除措置命令や課徴金といった厳しい手段を用意しています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:不公正な取引方法
不公正な取引方法をオリンピックの100メートル競走で例えると、某国が、何がなんでも確実に金メダルを取りたい場合、次のようなことが考えられます。
1.出走ランナー全員を当該某国の国民にする
2.出走ランナー同士の話し合いで当該某国のランナーがトップでゴールできるよう競争を止める
3.当該某国のランナーに武器を持たせ、自分の前を走る選手を攻撃して追い抜く
独禁法も、市場での公正な競争を促すため、
1.私的独占
2.カルテル
3.不公正取引
を、それぞれ禁止しているのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:不公正な取引方法とは
独禁法19条により禁止される不公正な取引方法は、同法2条9項に定義されています。
平成21年改正により、それまで公正取引委員会が告示という形で類型化していた部分(一般指定)の一部を、法文(同法2条9項1号~5号)に格上げしました。
具体的類型を法文上明らかにすることで、罪刑法定主義の要請に答え、課徴金の対象となる範囲を拡大したのです。
一方で、同項6号には、公正取引委員会の
「指定」
に基づいて明らかにされる行為類型も依然として存在し、多少複雑な構造となっています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:大規模小売特殊指定
大規模小売業者に対する
「特殊指定」
は、売上高が100億円以上か、店舗面積が3000平方メートルを超える店舗(政令指定都市以外は1500平方メートル)を有している場合に適用されます。
百貨店、スーパー、ホームセンター、量販店、コンビニエンスストア本部等の大規模小売業者による納入業者に対する優越的地位の濫用行為(不当な返品や押しつけ販売等)を効果的に規制する観点から告示されたものです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:優越的地位の濫用
独占禁止法が想定する
「優越的地位」
といった力関係がある場合には、
1.不要な製品を引き取らせる行為は、大規模指定1項の
「不当な返品」
に該当しますし、
2.自社店舗の新規オープンに際し、納入業者に一方的に手伝いを要請したり、他社製品の陳列まで要請したりする行為は、同指定7項により禁止されています。
このような行為が公正取引委員会の目につき、排除措置命令が出された場合には、当該禁止行為を取りやめることはもちろん、二度とこのような行為に及ばないように独禁法を尊守するための行動指針の作成や定期的な法務研修、公正取引委員会への定期的な報告といったさまざまな義務が課されることとなります。

助言のポイント
1.企業間取引だからといって「何でもアリ」というわけではない。独占禁止法の存在を忘れない。
2.価格と品質の競争(能率競争)以外の方法でビジネス戦争に勝とうとすると、独禁法違反のカドで公正取引委員会からヤキを入れられる。
3.公正取引委員会のガイドラインは具体例が豊富で分かりやすい。検討している取引に問題があるか不安なときには、まずは、相談事例をネットで調べよう。
4.平成21年改正(22年1月から施行)では、継続する特定の優越的地位の濫用行為に対して課徴金が課されることが定められた。「辞めたら済む」という話ではなくなっていることに注意しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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