00927_企業法務ケーススタディ(No.0247):土壌汚染物質をめぐる諸問題

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」十九の巻(第19回)「土壌汚染物質をめぐる諸問題」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
ダートマス・アンド・ティファニー・ケミカル・ジャパン株式会社(「ダーティケミカル社」)

土壌汚染物質をめぐる諸問題:
当社は、ダーティケミカル社から格安で手に入れた臨海地区の化学薬品工場跡地に、子供向けの遊戯施設やフードコートなどを中心とするアミューズメントパークを建設し、さらには、幼稚園や病院の誘致も計画しています。
土地の売買契約、不動産登記関係もしっかり確認し、金融機関の融資も取り付けました。
化学薬品工場跡地ということですが、お神酒や塩で清めておけば、まあ問題はないでしょう。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:土壌汚染対策法
平成15年に、土壌汚染の状況の把握に関する措置およびその汚染による人の健康被害の防止に関する措置を定める
「土壌汚染対策法」
が制定されました。
この法律は、特定の有害物質を使用したり生産したりしていた工場などの跡地や、都道府県知事が
「土壌汚染による健康被害が生ずるおそれがある土地」
と認める土地について、
1.土壌汚染状況の調査、
2.土壌汚染が発見された場合には都道府県知事の命令により当該汚染を除去するなどの措置
を執らせること
を義務付けるものです。
実際に土壌を汚染してしまった者ではなく、当該土地の所有者が第一次的な義務の主体となるところに特徴があります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:汚染調査義務
土壌汚染対策法は、特定の有害物質を使用したり、生産したりしていた工場が廃止された場合や、都道府県知事が
「土壌汚染による健康被害が生ずるおそれがある土地」
と認める土地(土壌汚染対策法が施行される前に廃止された工場の跡地など)の所有者や管理者、占有者に対し、特定の有害物質が残留していないかなどの調査を義務つけています(土壌汚染対策法3条、4条)。
汚染調査義務が課せられる場合、現在の所有者に限られます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:汚染除去義務
調査の結果、土壌汚染が発見された場合、所有者や管理者、占有者のほか、実際に土壌汚染を招いた者に対し、当該土壌汚染を除去する措置を構ずるべき義務を課しています(同法7条)。
ただし、実際に土壌汚染を招いた者であったとしても、所有者でなければ該当する土壌汚染地域に立ち入ることさえできず、迅速に対応することができないという理由から
「土壌汚染を招いた行為から土壌汚染が生じたことが明白であり」、
「土壌汚染を招いた者に汚染除去義務を課すことが相当であり」、
かつ
「土壌汚染を招いた者が汚染を除去することについて、所有者等に異議がない場合」
に限られます。
土壌汚染を隠して譲渡を行うなどした場合、不動産業者であれば、宅地建物取引業法違反などの罪に問われる場合もあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:費用の求償先
汚染調査の結果、実際に土壌汚染が発見され、かつ、汚染除去義務を履行した所有者は、土壌汚染対策法上、土壌汚染を招いた者の故意・過失を問うことなく、当然に
「汚染除去に要した費用」
を求償することができます(法8条)。
しかしながら
「汚染調査に要した費用」
については、土壌汚染対策法上、規定がなく、汚染が発見された場合であっても、当然には求償することができません。
そこで
「汚染調査に要した費用」
については、民法など、私法上の規定に基づき、瑕疵担保責任や不法行為による損害賠償責任を追及したり、不動産の売買契約などの規定に基づく請求をしたりすることになります。
汚染調査の結果、何ら土壌汚染が発見されなかった場合は、
「瑕疵が存在しない」
が明らかとなっただけで、瑕疵担保責任や不法行為責任は発生し得ません。

助言のポイント
1.土壌汚染が想定される土地の取引はとにかく注意してかかろう。
2.どうしても、土壌汚染が想定される土地を購入する際は、必ず、前所有者が土壌汚染調査を実施したかどうかを確かめよう。
3.土壌汚染調査がされていない場合、買主が汚染調査義務を負担しなければならないことを肝に銘じよう。
4.土壌汚染調査がされていない場合、汚染調査に要した費用の求償関係について売買契約書に明記すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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