00941_企業法務ケーススタディ(No.0261):美しい誤解は解かないままに・・・?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年10月号(9月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十三の巻(第33回)「美しい誤解は解かないままに・・・?」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同グループ会社 脇甘リアルエステート

相手方:
一般消費者

美しい誤解は解かないままに・・・?:
当社は、オフィス街に近い臨海地域の土地を格安で手に入れ、マンションを建設しています。
遠方には海、その手前には壮大な臨海公園の緑の景色が楽しめるマンションとなりますが、 2年後には隣に新しく高層マンションが建つことが予定されています。 
「隣にマンションができる」
ことはいわずに、マンションを売り、後になって文句をいわれないように、売買契約の締結のときには、
「周辺は他人の土地だから、他人がどんなふうに開発するかは責任を持てない」
というような内容の書面を渡して説明し、サインをもらうつもりです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:民法の原則
民法では、契約当事者の
「申込」

「承諾」
という意思表示が合致した場合に、契約が成立します。
しかし、意思表示の過程に他人の不当な干渉が加わったという欠陥がある場合(「瑕疵ある意思表示」)には、意思表示をした本人が希望するのであれば、意思表示を取り消すことができます(民法96条1項)。
「詐欺」

「強迫」
の場合、
「瑕疵ある意思表示」
があるとされ、契約を取り消すことができますが、契約当事者の一方である一般消費者が立証するのは、かなり難しいのが実情です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:消費者契約法の成立
昨今、取引に関する情報が高度かつ専門的となっており、消費者と事業者との間の情報格差・交渉力格差が大きくなり、消費者が不本意な契約を締結してしまう事例が多発したことから、民法の特別法として、
「情報力や交渉力において劣る消費者を守る」
目的で、消費者契約法が2000年に制定されました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:消費者契約法4条2項(不利益事実の不告知)
消費者契約法4条2項
「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる」
を翻訳するれば、
「商売人が、客に対して、モノを買うかどうかのポイントになる部分(景観が素晴らしい、など)について客の利益になることをアピールしたが、そのアピール内容を打ち消すような事実(隣地に高層マンションができる予定)をわざと教えなかったことで、客側がそのアピールを打ち消すような事実(隣地に高層マンションができる予定がある)がないものと誤解して、その結果、モノを買ってしまった場合には、客は、契約を取り消せる」
ということになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:消費者契約法違反で契約が取り消された実例
某有名不動産会社がマンションの売買契約を取り消されたケースでは、
「隣地は他人の土地だから、今後どんな建物が立つかわからないし、今後景観がどうなるかわからない」
という説明を契約時に消費者に対して実施した事実が認定されましたが、裁判所は、
「隣にマンションが建つことを知っていたのだから、そのような抽象的な説明をしただけでは、不利益事実を告知したことにはならない」
と判断しています(東京地裁平成18年8月30日判決)。
この判決では、マンション代金である約2900万円の返還が当該不動産会社に命じられたばかりか、売買契約が取り消された平成16年から起算して、代金の返還まで年5%の割合による利息の支払いまで命じられています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:消費者は保護対象 企業・法人同士の取引とは違う
BtoC取引においては、
「企業と比較すれば知力や情報に劣る消費者を保護してあげる」
というルール環境が支配しています。

助言のポイント
1.BtoC取引では「法律は消費者の味方」。「商人同士の駆け引き」と同じことをやると、足元をすくわれる。
2.消費者契約法は、実施している側にも負い目や自覚があるような「典型的な悪徳商法」以外の、ごくフツーの一般企業にも適用されるから要注意。
3.消費者契約法は民法の原則を根底からひっくり返している。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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