00949_企業法務ケーススタディ(No.0269):誤解の多い「みなし労働時間制」

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」四十一の巻(第41回)「誤解の多い『みなし労働時間制』」をご覧ください

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 子会社 脇甘トラブル社 添乗員

誤解の多い「みなし労働時間制」
子会社の添乗員たちは、自宅から集合場所に直接出勤してそのまま温泉旅行などに出発する業務形態のため、集合場所や旅館に着いた際には会社に連絡させ、ツアーから帰ってきた際は必ず会社で2時間かけて業務報告を書かせています。
先日、添乗員たちが残業代を要求してきたので、当社の労働組合との間の合意内容に基づいて就業規則を変更し、
「みなし労働時間制」
を導入しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:労働時間の適正な管理
厚生労働省労働基準局長は、平成13年4月6日付通達をもって、使用者が従業員の労働時間を適正に把握する責任があることを改めて明確にし、労働時間の適正な把握のために使用者が行うべき措置を
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」
としてまとめ、併せて、監督指導などの機会を通じて当該基準の周知を図り、その遵守のための適切な指導を行うこととしました。
この結果、始業・ 終業時刻を確認し記録することは使用者の責務とされ、例外として
「『労働時間を正確に把握するのが難しい事業場外の業務を行っている従業員』については、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間を労働したこととみなす」
という取扱いにされました(労働基準法38条の2第1項 )。
この例外を、
「みなし労働時間制」
といい、労使協定を締結、または就業規則を変更することで定めることができます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:間違い易い「みなし労働時間制」
「みなし労働時間制」
は、労働時間の適正な管理が責務とされる会社にとって、とても便利な反面、正しく理解するのが困難な制度で、誤解が起因となった事件が多発しています。
「会社は、日報や携帯電話での報告を義務づけているのだから、労働時間を把握することは容易であったはず。したがって、みなし労働時間制は適用されない」
として時間外割増賃金を請求する従業員に対し、会社側が
「ツアーに出発した後は労働時間を把握することは不可能である」
と反論した裁判例では、東京地裁は、みなし労働時間制の適用を認めず時間外割増賃金の支払を命じています(控訴審係属中)。
そもそもの誤解として、
「みなし労働時間制」
は、あくまで
「会社の外」
の労働時間に関する制度ですので、
「会社の中」
で勤務した分については、所定の時間外割増賃金を支払わなくてはなりませんし、法定労働時間である8時間を超えた場合には、当然、労使協定が必要となり、時間外割増賃金も必要になります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:設例の帰結
「会社側が労働時間を把握することは可能であった」
と判断される場合もあるので、業務報告を書かせている2時間分は
「会社の中」
での勤務として、所定の時間外割増賃金が必要になるでしょう。

助言のポイント
1.従業員の労働時間の管理は会社の責務。まずは、しっかりと管理しよう。
2.「みなし労働時間制」を導入するなら、その制度趣旨・制度設計を隅々まで理解すること。
3.労働基準法を都合のよい勝手な解釈をするのは命取り。必ず、専門家にきっちりと相談しよう。
4.「みなし労働時間制」は、単純に、時間外割増賃金を払わなくてよい制度ではない。法定労働時間を超えて「会社の中」で仕事をした分は、しっかりと時間外割増賃金を支払わないと、とんでもないことになる。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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