本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年9月号(8月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」四十三の巻(第43回)「仲間同士の熱い絆で談合摘発を乗り切れ」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
日本の明るい公共事業を考える会 建設部長 団 剛一(だん ごういち)
相手方:
公正取引委員会(「公取委」)
仲間同士の熱い絆で談合摘発を乗り切れ:
当社は談合の嫌疑がかけられているようで、当社が幹事となっている非公式の業界会合組織について、 公取委から質問がありました。
「ワシらの鉄の結束があれば、怖くも何ともない」
と、社長はいいながらも、この件の対応も含めて臨時会合を開くことにしました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:課徴金制度
公取委が、昭和52年から導入してきた課徴金制度は、独占禁止法が規定する
「私的独占」
「不当な取引制限」
など、違反した企業などに対して賦課する金銭的な不利益のことをいい、企業などが、
1.談合、カルテルなど 不当な取引制限(法2条6項、7条の2第1項)
2.不当な廉売などの方法で競争相手を市場から排除するなど 排除型私的独占(法2条5項、7条の2第4項)
3.株式を保有したり、役員を派遣したり、取引上の優位な立場を利用することで、競争相手の事業活動を制約することなど支配型私的独占(法2条5項、7条の2第2項)
4.共同の取引拒絶(法20条の2)
5.差別的対価(法20条の3)
6.不当廉売(法20条の4)
7.再販売価格の拘束(法20条の5)
8.優越的地位の濫用(法20条の6)
を行った場合に、課徴金の納付命令がなされます。
課徴金額は、原則として、違反行為実行期間(最大3年間)における違反の対象となる商品(またはサービス)の売上高に所定の算定率を乗じることで算出され、その算定率については加減算要素も規定されます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:リーニエンシー制度
平成18年、談合やカルテルなどに参加したり関与していることなどを自主的に申告した企業に対し、通常、課せられる課徴金の額を免除したり減らしたりする
「課徴金減免制度(リーニエンシー)」
が採用されました。
この制度は、公取委の調査が始まる前に
「不当な取引制限」
を行って独禁法違反したことを最初に自主申告した企業には、課徴金の賦課をゼロにし、さらには、刑事告発も免除するという恩恵を与えるものです。
また、2番目に自首申告した企業には、課徴金の賦課を50%カットする恩恵を(刑事告発の免除についてはケースバイケース)、3番目から5番目に自首した企業には、課徴金の賦課を30%カットする恩恵を与えます。
なお、課徴金減免制度を利用したい企業にとって、自社が何番目の自首申告者であるかは、その動機づけの点においてもとても気になるところです。
そこで、他の企業などが同一の違反行為について既に自首申告などをしているかどうか、公取委が識別できる程度に
「違反行為の内容」
「対象商品またはサービス」
を明らかにした上で照会があった場合、公取委は、その時点で想定される順位を教示することとしています。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:設例の帰結
後ろめたいことをしているのが明らかなのであれば、
「30年来の酒と裸の付き合い」
「莫大な課徴金」
「公表による社会的非難」
「入札からの指名停止」
といった不利益を、しっかりと天秤にかけ、1日も早く、申告書と資料をそろえて課徴金減免措置に基づく自首申告を行うべきです。
助言のポイント
1.友情や鉄の結束で談合・カルテルの摘発を逃れられるなんて、“古き良き時代”の戯れ言にすぎない。
2.かつての談合やカルテルの会合は、今や、疑心暗鬼のかたまりの場。いつ、誰が抜け駆けするか殺伐とした雰囲気の中で、呑気にあぐらをかいているのは自社だけかもしれない。
3.課徴金減免措置(リーニエンシー)の効果は絶大。友情と摘発を天秤にかけて、うじうじ悩む暇があったら、とっとと申請書と資料を揃えて自首した方がいい。
4.課徴金減免措置(リーニエンシー)による課徴金免除は立派な勲章。積極的にプレスリリースしよう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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