00953_企業法務ケーススタディ(No.0273):手形の情けは仇になる

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」四十五の巻(第45回)「手形の情けは仇になる」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
纈尾(ケツオ)産業 社長 纈尾 捲(けつお まくる)

手形の情けは仇になる:
社長は、取引先社長から支払いを待ってもらえないかと相談を受け、支払いを待つ代わりに担保を準備してもらうことにしました。
相手は、担保として、 遅延利息と迷惑料を含めて額面金額は代金の30%上乗せした手形を振り出すことを約束しました。
ただ、一括ではなく分割払いにさせてほしいとのことだったので、
「支払期日から3回の分割払いにします」
と、手形の裏に、きちんと書いてもらうことにしました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:金銭類似の手形の性格
手形とは有価証券の一種で、他人に
「金銭を請求できる権利」
を有している人は、
「手形」
さえ持っていれば、誰でも
「金銭を請求できる権利」
を行使することができるという点において、金銭と同様の性格を有します。
金銭と同様、手形も、法律をもって記載内容などを厳格に定められており(「要式証券性」)、1つでも事項が欠けていればその効力は発生しません。
記載内容に関する規定は手形法に定められています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:手形の記載事項
「手形要件」
さえすべて具備していれば、手形を振り出すことは可能です。
記載内容は、次の3つに分類されます。
1.必要的記載事項:必ず記載しなければならず、1つでも欠けるとその手形は原則として無効となる
(1)束手形であることを示す文句
(2)支払いを約束する文句
(3)支払う金額
(4)受取人の名前
(5)支払期日(満期日)
(6)振出日
(7)振出人の署名
2.有益的記載事項:記載するかしないかは振出人の自由、記載すると記載内容が法律的に有効となる
(1)利息文句
(2)裏書禁止文句
3.無益的記載事項:記載してもその手形上の効力は認められない

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:有害的記載事項
手形の記載事項には、記載することによって、その効力そのものを無効にしてしまう
「有害的記載事項」
があります。
手形金の支払いに
「条件」
を付けることで、流通性を失ってしまい、金銭と同じように転々流通する手形の性格を没却してしまうからです。
「請負工事の完成と引き換えに手形金を支払う」
「手形金を3回の分割で支払う」
など、余計な記載をすると、手形は無効になります。

助言のポイント
1.手形は金銭に類似する便利な決裁手段であるが、その仕組みを理解しないうちは、決して手を出さないこと。
2.手形は、その会社の信用力で成り立っている。“不義理”をすると、銀行取引停止をくらって、会社がつぶれることに。
3.手形を振り出す時、手形を受領する時は、その記載事項に注意して、慎重に扱うこと。
4.手形取引において“情け”は無用。分割支払や支払条件など、余計なことを記載させると、手形自体が無効になってしまう場合がある。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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