本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年12月号(11月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」四十六の巻(第46回)「労災は隠し通せ!?」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
脇甘商事株式会社グループ 脇甘鉱山株式会社 従業員
労災は隠し通せ!?:
グループ会社で事故が起こり、労災処理しようとする法務部長に、社長は、
「事故は隠し通せ。
労災保険は使わない。
財閥系金属会社の下請けとして労災事故が発生したなんてことが知られたら、契約を切られる」
と、反対しました。
そこで、従業員には、ケガに関しては自分の健康保険を使ってもらい、それでも生じる負担分は会社から出すことに。
また、事故に関する守秘義務契約を締結させ、これ以上事故に関する損害賠償請求等なされないよう、全員に損害賠償義務が発生する連座責任を仕組むような契約書を作成することにしました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:「労災」とは
労働災害とは、労働者が、業務上の負傷・疾病・障害・死亡すること(以下「傷病等」)をいいます。
業務上とは、平たくいえば
「業務が原因となった」
ということであり、業務と傷病等の間に因果関係があることをいいます(「業務起因性」)。
業務災害に対する保険給付は、労災保険が適用される事業(原則として、国の直営事業、非現業の官公署等を除いて、1人でも労働者を使用している事業)に、労働者(常用、臨時、日雇、アルバイト等の種類を問うことなく、賃金が支払われる者をいう) として雇われていて 、働いていることが原因となって発生した災害に対して行われます(「業務遂行性」)。
労災等により労働者が死亡または休業した場合、事業者としては、遅滞なく、労働者死傷病報告等を労働基準監督署(以下「労基署」)長に提出しなければなりません(労働基準法施行規則57条)。
「労災隠し」 は
1.故意に労働者死傷病報告を提出しないこと
または、
2.虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を所轄労基署長に提出すること
をいい、適正な労災保険給付に悪影響を与えるばかりでなく、労災の被災者に犠牲を強いて自己の利益を優先する行為として厳しく糾弾されることになります。
具体的には、労働安全衛生法100条に違反し、同法第120条第5号(50万円以下の罰金)に該当することとなります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:なぜ「労災隠し」は起こるのか
事業者が、刑罰まで用意された労災隠しに及ぶ一番大きな動機としては、将来の取引停止、今後の受注に影響が出ないかなどの懸念があります。
また、行政から免許取消し等の直接的な処分が下される可能性への恐れ、あるいは、無災害表彰の受賞等の安全成績の維持、ひいては保険料を安くする吝嗇、などの理由もあるとされています。
実際に送検された事例は、労災保険の適用の有無により、例えば休業中の補償や後遺症の補償に大きな差が出るため(一般的な健康保険では補償されません)、生活に苦しんだ従業員からの申告により発覚しています。
いざ明るみに出た場合には、送検されることはもちろん、公表されますので新聞沙汰になります。
助言のポイント
1.「労働災害」に該当する要件を把握すること。発生したら、まずは労基署に報告すること。
2.「労災隠し」が判明したら、送検されるわ新聞沙汰にはなるわで一挙に信頼を失う。隠すメリットなんて皆無。
3.「隠し切る」!? 無理ムリ。漏らした場合に罰金を設定するなど工夫したとしても、将来にわたってケガをした従業員抑え込むなんてできやしない。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
✓当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ:
企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所