本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2014年1月号(12月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」五十八の巻(第58回)「繁盛店を丸ごとパクって大儲けじゃ!」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
定食屋 ザ・おふくろ
繁盛店を丸ごとパクって大儲けじゃ!:
社長は、ビジネスマンに大流行の定食屋のアイデアやコンセプト部分(割烹着のメーカー、食器、店の雰囲気)などすべて丸パクリして、大阪、名古屋と都市部に拡げようと考えつきました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:ビジネス上のアイデアの保護
ビジネス上のアイデアや情報は、一般に無体財産権と呼ばれ、法的に保護されています。
大雑把にいえば、文章や画像・動画を作成したときには著作権、技術を発明してこれを登録したときには特許権、特長ある商業デザイン等については意匠権、商品名等には商標といった形で、各種知的財産法によって、それぞれの権利が保護されています。
また、権利性がはっきりとしない顧客情報等の機密は、しっかりと秘密に管理すること等の要件が存在することが前提ですが、不正競争防止法によって保護されていますし、どこかの誰かが確立したビジネスモデルにタダ乗りするような行為(フリーライド)についても同法の保護が及ぶ場合があります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:トレードドレス
商標権が成立している店舗の標章をそっくりそのままパクれば、商標権侵害が成立します。
侵害の成否については、その類似性等も厳密に検討されます。
商標権については、標章だけでなく、店の名前や商品の名称のほか、立体商標等も登録が可能になるなど、権利保護の対象は拡大傾向にあります。
商標は特許庁に登録することにより成立しますが、このような
「登録」
には馴染まないものとして、商品の陳列方法等コンセプトを含めた、より広い範囲での営業形態
「トレードドレス(“trade dress”)」
が存在します。
この概念は、日本ではまだ正確に定義されていませんが、字義通り
「商品のドレス(=パッケージ)」
を指し、大きさ、型、色の混合、構造、画像、特定のセールステクニックのような具体的特徴を含む商品等の全体的なイメージであるとされています。
概念が認められる法的根拠についてですが、不正競争防止法2条1項1号
「周知表示の混合惹起行為」
もしくは同2号の
「著名表示の冒用行為」
に求められます。
この法律は、模倣商品の販売を禁止したりすることはもとより、著名なブランドの無断使用の禁止、まぎらわしい商品名の使用禁止から、営業秘密の侵害禁止、さらには外国公務員への贈賄禁止まで、いろいろな趣旨の規定がヤミ鍋のようにブチ込まれている法律であり、本件のような新規な法律概念までフォローしています。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:裁判例の動向
トレードドレス侵害が争われた事例では、
「店舗外観全体」
についてトレードドレスが成立し得ることを判断し、消費者側の視点において、誤認混同を生じさせる客観的なおそれが必要であると述べています(大阪地裁平成19年7月3日判決)。
結局のところ、間違って入る客がいるような状況だとアウトといえるでしょう。
助言のポイント
1.事業のアイデアやコンセプトは基本的にパクリ放題。
2.でも、店舗の外観をそのままパクるようなことはトレードドレスを侵害したものとして違法の判断を受ける場合がある。
3.自分の商売をトレードドレスとして守ることを考えるのであれば、長年にわたって特徴的な販売等を積み重ねていかなければならず、ハードルは高い。でも、千里の道も一歩から。優れたコンセプト等は、客に目に見える形でしっかりと提示し続けよう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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