00969_企業法務ケーススタディ(No.0289):辞めた従業員がライバル会社で暴れ出したぞ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2014年4月号(3月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」六十一の巻(第61回)「辞めた従業員がライバル会社で暴れ出したぞ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社グループ 辛栗(カラクリ)工業株式会社(カラクリ工業) 元営業課長 浦 来留夫(うら きるお)
房総(ボウソウ)ロボット工業株式会社(房総ロボット)

辞めた従業員がライバル会社で暴れ出したぞ!:
退職した元従業員が、辞めて半年後に、同業他社の取締役に就任し、当社子会社の主要取引先と取引を始めたため、当社子会社の売上高は1割程度減少しました。
就業規則に退任後の競業を禁止した規定はないし、元従業員から退職後に競業避止を内容とした誓約書も取っていませんが、社長は、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起すると、息巻いています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:在職中の従業員の競業避止義務
会社には従業員に対する配慮義務が、従業員には会社に対する誠実義務が、課されています(労働契約法3条4項)。
そして、従業員に課される会社に対する誠実義務の典型例の1つとして、会社に在職中は、その会社と競合する他社に就職や同業を開業しないという内容の競業避止義務が挙げられます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:退職後の従業員に一般的に競業避止義務を課すことができるか
従業員の退職後は、両者の適切な合意等がない限り、元従業員に競業避止義務を課すことは認められません。
なぜなら、競業避止義務は、従業員が生きていくために食い扶持を稼ぐ権利すなわち職業選択の自由(憲法22条1項)という、人間としての当然持つべき権利を奪うことにつながることになるからです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:契約書がなければ、退職後はやりたい放題か
退職後の競業避止義務を定めた就業規則や誓約書等が存在し、その内容が合理的なものであれば、会社は元従業員に対して、退職後においても競業避止義務を課すことが可能です。
仮に当該就業規則や誓約書等がない場合であっても、元従業員の行為があまりに異常で違法性が顕著と言い得る場合、当該元従業員は不法行為に基づいた損害賠償責任を負うこともあり得ます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:浦来留夫氏の行為の評価
最高裁判例(最判平成22年3月25日)では、競業避止義務の特約等の定めなく退職した元従業員が、新会社を設立して元会社と同種の事業を開始し、元会社の取引先から継続的に仕事を受注した事例について、競業行為の違法性を否定しています。
設例の相手方の行為ですが、離職後半年以上の時を経て競業行為を行っており、競業行為の態様は元会社の営業が弱体化された状況を利用したともいえません。
さらに、営業秘密に係る情報を用いたりその信用を貶めたりするなどの不当な方法で営業活動を行ったとの事実もないことから、浦氏の競業行為が民法上違法と評価される可能性はほぼ皆無と考えられます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:競業避止の誓約書徴求を
退職後の競業避止義務を設定できるような明確な環境を構築すべきです。
すなわち、就業規則上に競業避止義務に関する規定を設け、その内容は競業避止義務を課す必要のある職務及び地位を特定した上で、競業避止期間及び場所を限定し、さらには競業避止に対する経済的補償等の対価等を定めるとともに、退職後においても同内容の誓約書を徴収することが望ましいでしょう。

助言のポイント
1.退職した従業員は、競業規則や誓約書で明確な競業避止義務を定めていない限り、基本的には「やりたい放題。やられても何もいえない…」となる。
2.退職後の従業員に好き勝手させないよう、性悪説に立って、就業規則や誓約書で、顧客データ持ち出し禁止、取引先接触禁止等をきちんと義務づけておこう。
3.「退職後の競業避止義務条項」のある就業規則や特約等は、その内容を合理的なものにすること。
4.競業禁止の誓約書を取っていない退職した元従業員について、競業行為がムカつくからというだけでは、裁判には到底勝てない。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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