本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年8月号(7月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十七の巻(第77回)「やりすぎ広告、何が悪い!?」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
消費者庁
やりすぎ広告、何が悪い!?:
当社の大ヒット商品の効能説明部分の表示が、景表法の不当表示にあたるとして、消費者庁から措置命令が届きました。
「表示された効能を示す資料を数日のうちに提出せよ。
提出しない場合には、直ちに商品を市場から排除せよ。
排除しない場合は、課徴金として全売上げの3%を支払え」
とあります。
そこで、知り合いの医学部教授に調べてもらい、報告書を消費者庁に提出することにしました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:景表法とは
消費者は、商品を買う際には、その内容と値段を確認してからその商品を買うかどうかを判断します。
商品・サービスの品質や価格の情報について、嘘や大げさな表示が横行すれば、消費者のジャッジを誤らせる危険があるため、景品表示法では、消費者の誤解を招くような不当な表示を禁止しています。
表示規制は、大別すると、
1.優良誤認:商品やサービス内容そのものについて、著しく優良にみせかけるような表示
2.有利誤認:商品の値段を著しく安く有利にみせかけること
の2つに分けることができます(景表法4条1項)。
優良・有利誤認表示規制のポイントは
「著しく」
有利な表示のみを規制している点です。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:制裁措置~“ヤリ得”を狙う企業と、これを封じる法システム~
一般消費者からの情報提供などにより、景表法に違反する表示がなされている疑いのある場合、消費者庁は、関連資料の収集、事業者への事情聴取などの
「調査」
を実施し、その結果、違反行為が認められると、事業者には言い訳をする機会(「弁明の機会」)が与えられます。
そして、これを吟味した上で、違反行為の差止めなど必要に応じた
「措置命令」
の是非判断を行います。
措置命令発令後、事業者がこれを放置すると、
「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」
またはこの両方が科せられます。
もっとも、措置命令では、企業が不当表示によって得た利益を剥奪することはできないうえ、措置命令違反の罰金の上限が
「300万円」
で済んでしまうことから、抑止力としては十分に機能していませんでした。
そこで、課徴金制度が導入されました。
企業の違法行為が認められた場合の課徴金の金額は、違反商品やサービスの売上額の3%(過去5年まで遡る)とされ、違反企業が被害者に自主返金した場合は課徴金処分が減免され、また違法行為を自主申告した場合は課徴金を減額されます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:ミュー・オーシロ事件
裁判例では、裁判所は企業側の主張をことごとく退け、商品に付された表示は、優良誤認表示にあたらないとしました(東京高裁平成22年10月29日)。
助言のポイント
1.宣伝文句は、「一般的なセールストーク」として許容される範囲の多少の誇張は許されるが、明らかな嘘や消費者の正常な取引判断を狂わせる大げさな表示は、景表法に違反する可能性がある。
2.大学教授や科学の専門家の意見だというだけで、裁判所や消費者庁が納得するとは限らない。
3.消費者庁から措置命令発令前の「お呼び出し」がきてから、慌てて「売り文句」の根拠を準備をしていたのでは遅すぎる。自社商品の有用性を誇示するなら、その確実性、合理性を立証できる客観的で正確なデータを用意してから。
4.「天下の奉行所」たる消費者庁や裁判所を舐めて、テキトーに争うのは危険。ときには早々に平伏し、穏便に済ませる方策も検討しよう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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