本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年10月号(9月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十九の巻(第79回)「今さら総会屋!?」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
邪道 蛇男(じゃみち へびお)
今さら総会屋!?:
今度の臨時株主総会に、10年ぶりに総会屋がやってくるとの情報がはいりました。
社長個人宛にも恐喝文書のようなものが届いています。
相手の要求を鵜呑みにして会社の金で支払うと利益供与になります。
そこで、社長が個人的に支払えば利益供与で罰せられることはないだろうと考えました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:利益供与の禁止とは
会社法は、
「何人に対しても株主の権利行使に関して自己またはその子会社の計算で財産上の利益を供与してはならない(会社法120条1項)」
とし、会社のオーナーである株主の権利行使に影響をもたせようとして財産を拠出し取締役らが株主の意思決定を歪めることを広く禁止しています。
利益供与に関与した取締役らは、民事上、当該拠出した利益に相当する額の金銭を会社に支払うべき義務を負担するばかりでなく、刑事上も、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処される可能性があります(会社法970条)。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:罪刑法定主義との関係
刑罰を定めている会社法970条1項は、
「株式会社…の計算において財産上の利益を供与したとき」
だけ罰する、と記載していますが、法律の解釈の仕方は極めて幅広く運用されているのが実際です。
特に刑罰を付与する条項に関し、国民が予測しやすいように、解釈の揺らぎが出ない文言を選択し、運用も厳格に行われるべきことがいわゆる罪刑法定主義の一内容であり、これは、利益供与の禁止条項との関係でも同様といえます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:裁判所の解釈権限
法文上は一応明確に記載されていますが、これをどのように解釈するかは裁判所に一任されています。
裁判所は、その損益が究極的に会社に帰属していれば、名義は重要ではない、と判断しました(東京地裁昭和62年2月3日)。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:対応方法
仮に、恐喝の内容が極めて違法性の高い、例えば誰かに危害を加えかねないようなものであったとしても、これに諾々と応じることは許されないとされており、現在の会社法制においては、もとより応じるなどという選択肢自体が存在しないのです。
このことは、同種の要求がなされた
「蛇の目ミシン事件」
において、高等裁判所が丁寧に事実関係を検討した上で
「まことにやむを得ない」
などとして、やむなく要求に応じた取締役の責任を否定したのに対して、最高裁が善管注意義務を負担する取締役に極めて厳しい姿勢を示したことからも明らかといえます。
助言のポイント
1.条文を確認した!? 下手の考え休むに似たり、素人考えで法律の裏をかこうなんて、リスクしか存在しない。
2.無茶な要求を丸く収める? 無理、無理。というよりそんなことはしてはならず、法に沿って対応するしかない。
3.法律もその解釈も常に流動的。裁判例にしたってその時々の時代背景に支えられているのであり、勝手に行動してしまう前に専門家に確認するしかない。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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