00988_企業法務ケーススタディ(No.0308):突撃営業で、大儲けじゃ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年11月号(10月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十の巻(第80回)「突撃営業で、大儲けじゃ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
一般消費者

突撃営業で、大儲けじゃ!
訪問販売で商品を購入した消費者が返金を求めて、当社に押し寄せてきました。
当社が商品を販売したのは1年も前のことですし、営業マンたちはお客様に、
「8日たったら解除できません」
と小さな字で書いてある書面を渡していますので、こちらは毅然とした態度で
「クーリング・オフの行使期間はすぎているから、カネは返せません」
と、相手の要求を突っぱねればよいだけです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:訪問販売に対する規制
商品の販売方法が特商法上の
「訪問販売」
すなわち
「店舗等以外の場所で行う商品、権利の販売または役務の提供」(同法2条)
に該当すると、原則として、以下の規制を受けます。
1.氏名および勧誘目的の明示(同法3条)
2.再勧誘の禁止(同法3条の2)
3.書面の交付義務(同法4条、5条)
4.不実告知等の禁止(同法6条)
5.クーリング・オフ(同法9条)
事業者は、書面によりクーリング・オフの意思表示をさせる必要があり、書面交付から8日間、無条件で契約の申込撤回や契約の解除を可能としなければなりません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:訪問販売規制に違反した場合のペナルティ
規制に違反した事業者は、業務改善の指示(特商法7条)や業務停止命令(同法8条)を受けます。
業務停止命令の場合、その理由となった違反行為の内容等を社会に公表する(同法8条)行政処分を受けるほか、この前段階でも、マスコミや消費者庁の注意喚起リリース(政府広報を活用した注意喚起や地方公共団体や関係機関等の協力を得た普及啓発活動。消費者安全法38条1項)等されることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:本件について
販売員が消費者に訪問販売し、消費者側はクーリング・オフに関することが記載された書面を受領したものの約10ヵ月後にクーリング・オフの権利行使が行われたことについて、裁判で争われたケースがあります(大阪地裁平成19年3月28日判決) 。
この事件では、販売員が営業の現場において、どんなに口頭で商品の良さや価格、クーリング・オフについて説明し、消費者がうなづいていたとしても、交付した書面に法律で求められた記載が少しでも欠けていた場合には、クーリング・オフは可能であり、すでに受け取った代金は全額返還する必要がある、という判決が下されました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:まとめ
特商法上の規制に違反し、業務停止命令が下されれば、社会的経済的な損害が生じるのみならず、インターネット等を通じて広がり、企業にとって想像以上の大きな痛手となり得ます。
「訪問販売」
は、昨今、お客さんの側ではもうウンザリと感じていることが多く、ストーカー規制等をプライバシーが非常に大事にされている時代にあっては、当該訪問行為自体、世間の反感を招きかねないため、流行りません。
訪問販売をやるなら、きっちりとしたコンプライアンス体制を整備し、厳しく運営してください。

助言のポイント
1.商品の説明は、口頭でするだけでは足りず、商品内容等をキチンと盛り込んだ書面を作成し、お客に交付すること。
2.クーリング・オフに関する事項が記載された書面交付しない限り、いつまでもクーリング・オフを行使される危険がある。
3.特商法は消費者にとって正義の味方。これに違反するとそのペナルティは重大。さんざん悪者扱いされた挙げ句、コンシューマー向けビジネスが潰れかねないので注意すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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