本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年4月号(3月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十五の巻(第85回)「懲戒解雇した不良社員に、退職金を支払う道理などあるか! 」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
脇甘商事株式会社 社員 コンプライアンス部 無羅 武良夫(むら むらお)
弁護士 助平 守(すけひら まもる)
懲戒解雇した不良社員に、退職金を支払う道理などあるか!:
当社の社員が、通勤中に電車内で痴漢捕まり、本人は罪を認めています。
当社としては、即刻、懲戒解雇するつもりです。
就業規則上も、過去の先例をみても、懲戒解雇ができることになっていますし、退職金は支払わないという扱いになっています。
ところが、相手が雇った社会派弁護士が、
「痴漢くらいで解雇はやりすぎだ。
解雇の案件は争う。
仮に辞めることとなっても、退職金は不支給は認めない」
といってきました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:日本の労動者の最後の世話焼き係は裁判所
日本の労働法は、労働者の解雇については、簡単には認めません。
解雇を会社に認めてしまえば、会社は、労働者を意のままに操り、労働者を会社の横暴から保護しようとした労働法の目的が完全に喪失ことは明白だからです。
就業規則や労働契約などにおいて、形式上・字面上、具体的かつ明確に定まっている場合であっても、労働者保護の観点から、会社側の解雇処分をなかったこと(=解雇無効にして復職させる)という扱いをされてしまいます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:痴漢をする心得違いは、一発解雇!?
電鉄会社の社員が電車内において痴漢をした事例では、裁判所は懲戒解雇に相当するとの判断を出していますが、この場合、
「半年間に2度、痴漢しているし、1回目に『二度とやりません』と誓約書を出している」
という事情があって、ようやく
「懲戒解雇やむなし」
と判断されました(東京高判平成15年12月11日) 。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:心得違いの大馬鹿者には、退職金などびた一文やらん!
懲戒解雇になった場合には退職金不支給とする規定を置いている企業は多いとされ、企業が組織として活動していく上で、このような考え方は至極当然に思えますが、裁判所は異なる判断傾向を有しています。
なぜなら、退職金は、
「給料の後払い」
としての性格が一部あり、
「報奨金」
としての性格もあるからです。
「著しい背信行為」
が存在する場合に、退職金不支給という判断が正当化されるようです。
社会的非難が高い
「痴漢」
であっても、裁判所は、労動者の生活保障を重視しているといえるでしょう。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:懲戒と退職金を使って規律の引き締めだ!
企業としては、退職金不支給規定は労動者に対し予告して規律の引き締めを図りつつも、裁判所に無効と判断される場合があることを自覚すべきでしょう。
労動者自身が納得したうえで
「自己都合退職」
にしたり、懲戒解雇の一歩手前の
「論旨解雇」
としたり、その中で
「退職金の一部減額」
等を行うことも考えられます。
経営者労働者双方が納得し、多くの人が見ても頷かざるを得ない、柔軟な就業規則を作るべきでしょう。
助言のポイント
1.日本の労動者は、労働法、裁判所によって強く守られている。安易な解雇はできないと心得ること。
2.懲戒解雇の「心得違いの大馬鹿者」に「退職金はびた一文支払わん!」というのは、裁判所の世話焼きの前では無効と判断される場合もある。
3.退職金の不支給については「びた一文支払わない!」とするのみではなく、労働者の同意を取り付けて「減額」としたり、柔軟な処分を行えるようにしておくこと。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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