01006_企業法務ケーススタディ(No.0326):脱税? 節税? そんなに違いある!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年5月号(4月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十八の巻(第98回)「脱税? 節税? そんなに違いある!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
不動産会社 ギロッポン・カンパニー 代表  脇甘 鶏知留(わきあま けちる、社長の甥)

相手方:
国税庁

脱税? 節税? そんなに違いある!?
社長の甥っ子が経営するベンチャー企業のところに税務調査がやってきたようです。
社長は、知らぬ存ぜぬでつっぱり倒せ、とアドバイスします。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:脱税と節税と租税回避と申告漏れ
脱税、節税、租税回避、申告漏れ。
これらの共通点である目的ないし効果は、平たくいえば、支払う税金をゼロにする、あるいは、少なくすることです。
しかしながら、これらは、方法、態様、法律や当局との緊張関係という点では、顕著な違いとなって表れます。
脱税は、法に触れるものであって(課税要件を充足するにもかかわらず税務当局に申告しない)、かつ、主観要件、つまり売上の除外、架空経費といった行為を、仮装隠蔽の意図をもって行うもので、無論、違法行為かつ罰則が適用される犯罪行為でもあります。
そして、節税は、税法で定められている各種特典や措置を活用して税の軽減を図るもので、法が予定し法が認めている税負担減少行為ですので、適法です。
租税回避は、(明らかに違法とは断定できないが)法が予定・想定していない税軽減行為であり、税負担を減少する効果を生じる取引で、あまり経済合理性が感じられない類いの行為です。
申告漏れは、脱税と同じく
「課税要件を充足するにもかかわらず税務当局に申告しない」
というものですが、脱税との違いは仮装隠蔽の意図がない、あるいは認定できないところです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:脱税とそれ以外の行為との決定的違い
脱税とそれ以外とでは顕著な違いがあります。
節税は問題ありません。
租税回避も
「法が予定していない」
というだけで違法と決まっているわけではないので、ある意味法の不備として議論すべきものであり、納税申告した側が厳しく非難されることはさほど多くありません。
申告漏れは、悪いといえば悪いですが、ある意味、誤解やミスやエラーによるものとして、指摘された間違いを認めつつ是正指導を受けて、自主的に修正、で十分といえば十分です。
しかしながら、脱税は、もはや国家と社会への挑戦であり、国庫から国の財産を横領するのと同様、笑って見逃すわけにはいきません。
したがって、発覚後納めるべき税額も特別に加算されますし(重加算税)、さらに、事と次第によっては、犯罪者としてその罪を裁かれ、最悪、刑務所で懲役刑を受けて、強力な矯正を実施されることもあり得ます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:税務調査と犯則調査
設例の場合、社長の体験した事案は、予告の上、税務調査官が来訪して申告漏れがないかどうかを任意の調査によって調べる手続きで、申告漏れの不備がみつかったので指導を受け、自ら修正申告して平穏に終了したものです。
行政目的での行政調査が行われたわけですから、ヌルいのは当たり前です。
他方で、脇甘鶏知留氏は脱税行為という犯罪が行われたとの高度の蓋然性を前提として、裁判所の発令した令状に基づき、査察部(マルサ)が行う、行政目的とは別の犯則調査目的(犯罪調査目的)での強制調査(ガサ入れ)であり、かなり厳しい状況です。
脱税については、ほ脱税額を原則的基準とした処罰運用がなされ、その基準は、
「ほ脱税額3000万円以上が告発基準とされ、基準を充足すると刑事告発され検察庁に送致される。
情状次第で不起訴か執行猶予をいただける。
ほ脱税額が1億円以上となると、実刑判決基準となり、執行猶予は期待できない」
といわれます。

助言のポイント
1.脱税と申告漏れと節税と租税回避。企業の税務においては似て非なる重要な概念。違いをしっかり理解しておくこと。
2.節税は問題ないし、租税回避は「見解の違い」を前提にいくらでも争える話。申告漏れも「知らずに、ついうっかり、やらかしちゃった、ミスやチョンボ」であれば、後で利子(延滞税)をつけて支払えば何とかやりすごせる。
3.仮装隠蔽による巨額な脱税をすると、そのペナルティは大変。重加算税に、刑事告発、脱税額によっては刑務所行き。もし万が一犯則調査に遭遇したら、不当ないいがかりは徹底して争うべきだが、身に覚えがあるなら、空気を読み、状況を理解して、正しく対応し、最悪の事態を避けること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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