01010_企業法務ケーススタディ(No.0330):共有持分取引の闇!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年9月号(8月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百二の巻(第102回)「共有持分取引の闇!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
和気有(ワケアリ)不動産

共有持分取引の闇!?
都内の一等地にある土地建物の持ち分50%が驚きの低価格で買える、という話が持ち込まれ、社長は、
「今日中に何が何でも買う」
と鼻息が荒い状態です。
そこで、法務部長は、午前中に詳細を確認し、社長がランチミーティングの間に、司法書士に電話して電子申請で登記し、同時に振込送金、と手配の段取りをします。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:所有は単独独裁がイチバン。共有は悪夢
所有権を持つ者は、所有物を使おうが、貸して賃料を得ようが、売り払おうがまったく自由で、取引そのものについては基本的に一存で決められます。
ところが、複数人で行う共有となると、非常に面倒な状況に陥ります。
土地を共有した場合、土地全部を勝手に売り払うことができない(他の共有者の権利を侵害する)のはもちろんのこと、土地の利用形態を変更したり、土地の上に乗っている建物を勝手に建築することなどもできません。
建物が共有の場合、他の共有者に無断で勝手に住み始めるとトラブルになりますし(合意が成立し、応分の費用精算できれば別)、大規模な改造をしたり、取り壊して建替えなどすれば、それは他の共有者の所有物(共有物)を勝手に壊しているのと同じであり、裁判沙汰になります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:共有状態の解消
「共有」
は、不動産を所有する人が遺書を書かず亡くなり、相続人が複数いて、相続協議がまとまるまでの間、法定相続分に従って持ち分が相続されることにより生じることがあります。
そして、よくあるのが、結婚した夫婦が不動産を買う際、妻の父親が頭金を支援し、夫と妻の父親の共有、という形に落ち着くケースです。
婚姻関係が円満な間はいいのですが、離婚するようなことになると、夫と妻の父親が共有し、さらに、夫のローンがまだ残っていて銀行の抵当に入っているうえ、買ったときより不動産価格が下がって、何が何だかわからない状態に陥る、ということもあります。
また、稀なケースで
「高級物件の持ち分が、破格の安さで買える、オイシイ話」
という触れ込みに乗せられ、意味もわからずに、持ち分を買い取り、知らない誰かさんと共有状態になった、という話です。
法律上、分割(現物分割や代償分割等)をしたり、分割話がつかない場合は競売にかけ売得金を持ち分に応じて取得、というような手続も用意されていますが、これらの手続を遂行するには、多大な時間とエネルギーを要します。
特に、不動産の場合、他の共有者においてセンチメントバリュー(感情的・主観的な思い入れによる価値)に対する感受性が大きいと、経済合理性に基づく冷静な議論が不可能となります。
そして、モメている間も、固定資産税はとられますし、第一、資金が塩漬けになり、かつ勝手に自由に邸宅を使えるわけでもなく、経済的には、愚の骨頂です。

助言のポイント
1.所有と共有は異なる。配偶者や恋人の共有や、自宅の風呂やトイレが共同利用になるのと同様、「共有」は、法律上大きな制約があり、「共有持分」は経済的には無価値と心得よう。
2.2分の1の共有持分だから、半分が時価、などと安易に考えないこと。共有状態解消に、気の遠くなるような時間とコストとエネルギーが必要になる。
3.支配する物を用いて経済的かつ効率的に成果を得るためには、単独で独裁的に絶対的自由な支配を持つべき。単独所有以外の物権は、権利などではなく、将来のトラブルの種であり、時間とカネの無駄を生む、疫病神という面があることも心得よう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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