本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年1月号(12月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百六の巻(第106回)「就業規則の変更手続? 適当にやっておけ!」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
脇甘商事株式会社 従業員全員
就業規則の変更手続? 適当にやっておけ!:
当社では、人事制度の大改革を進め、給与体系を年功序列型から能力主義へと変更しようとしています。
相談した社労士からは、
・今回の就業規則変更等は労基署に届ける必要がある
・届出にあたっては、職場の組合か代表者から署名押印をもらうように
・当社には組合がない場合は、従業員で選挙をして代表者を選んでもらい、その代表者と話し合うように
と、いわれました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:就業規則とは
一般に、就業規則とは、
「使用者が従業員の労働条件や服務上の規律などを定めたもの」
と定義されています。
企業がカネを払い労働者が労働を提供する、すなわち、企業の指揮命令に従って労働サービスを提供する取引を基本内容とする労働契約の内容が、就業規則に記載されているのです。
労働基準法でも、常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則を定めることが義務づけられ、また、就業規則で定めた労働条件は、その事業場における労働条件の最低条件としての効力を持つ、とされています。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:就業規則の不利益変更
就業規則の
「不利益」
変更については、原則これが適用される労働者全員が同意することが望ましいが、全員が同意しないものであっても、
「合理的なもの」
であり、所定の法定手続きを踏んだものであれば、反対する労働者も拘束する、という取扱いです。
このロジック(就業規則不利益変更法理)の背景哲学としては、
・企業側は、労働契約法第16条によって解雇(一方的な契約解消)が絶望的にできない状態にある
・すなわち、企業側としては、
「この(新たな)就業規則に不満であれば、クビにするから、とっととやめろ」
といえない状態にある
・とすると、就業規則も変更できない、解雇もできない、というのであれば、あまりにも企業側にとって酷
・他方で、ムチャクチャな就業規則に変更し放題、というのも解雇権濫用を戒めた労働契約法16条を空洞化させる
ということで、判例・実務としては、
「合理的な不利益変更であれば、反対する労働者をも拘束する」
という妥協の産物を作り上げ、事態収拾基準を立てた、といえます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:何が「不利益変更」か
就業規則が労働者に不利益に変更された場合、企業側としてはどんなに不合理な変更であっても自画自賛しますし、労働者側としてはどんなに合理的な変更であっても認められない、と争うことになり、結局、一義的な基準を定めることなどできるはずもなく、結果、合理・不合理の判定は、変更内容の中身そのものもさることながら、外形的にみてどのように適切かつ慎重に協議を踏まえて議論されたか、という点で判断することほかなかろう、というのが現在の一般の考え方です。
現実問題として、就業規則の変更手続きとしては、労働基準法によって、労働者代表(労働者の過半数で組織する労働組合、これが存在しない場合は労働者の過半数の代表者)の意見を聴いた上でおこなうべき(同法第90条第1項)、とされていますので、企業側にこのプロセスを実質的・実体的にきちんと踏ませることを通じて、変更合理性の担保とさせよう、という取扱いです。
すなわち、労働者の代表者ときちんと話合いの場を設け、相手の意見に耳を傾け、もっともな反論については説明し、必要な妥協や調整を行う、ということを通じて、合理的な変更を基礎づけよう、という狙いです。
なお、労働基準法が求めているのは、
「労働者の意見を聴くこと」
であり、
「同意を得る」
「意見に従う」
ということではありませんので、労働者側が不合理な意見に固執し、企業側の合理的な意見にも耳を貸さず、いわば
「話にならない」
状態であれば、妥協や同意はできなかったが
「意見は十分聴くだけ聴いた」
ということで不利益変更に踏み切ってもやむを得ない、と考えられます。
助言のポイント
1.就業規則の変更は、企業側のイニシアチブで可能であるが、労働者に不利益を与える変更には、労働基準法のほか、就業規則不利益変更法理によって、各種制約が課されている。
2.就業規則の変更には、労働者の代表の意見を聴取する必要がある。必ずしも、意見に従ったり、言いなりになる必要はないが、きちんと噛み合う議論をしておかないと、「就業規則の不合理な変更」と後でいわれる危険性がある。
3.労働者代表者の意見をロクに聴かない、労働者の意見聴取手続も代表者選出すらしない就業規則の勝手変更をしても、反対する労働者に従わない理由を与え、会社を揺るがす人事の混乱を招くことになるから、注意しよう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
✓当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ:
企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所